猫虫と葉桜の日々

文字数 684文字

河原をあるいてみれば、そこにある丸石ぜんぶ、丸まった猫なのだった。
あるかねばならない、でも靴をはいたままは気がひけた。裸足であるいていく。
「猫じゃねーぞー」土手の彼方から、若者が陽気な様子で叫んでよこす。「猫虫だー」
なるほど葉桜からぽろぽろ落ちてくる虫。はじめは小さいのに河原までころがってきては、猫虫になっている。大人の猫のサイズだ。が、まだ生まれたばかりなのだ。
季節柄とはいえ、そもそもあったはずの河原の石はどうなったのだ。足裏にここちよいとはいえ、猫虫を踏んでは、あかるい澄んだ日差しにもかかわらず、罪悪感に心が黒ずんでくる。
「どうしたらいいんですー」わたしは立ち止まり、彼方の若者を振り仰いで大声をふりしぼってきく。
「なにをだー」と、彼は大きな叫びをわたしに返してくる。
「猫虫ですよー」
「気にすんなー」
足下では滑っこい猫虫がにゃあにゃあいう。あまりにも数おおい、おびただしい猫虫のうごめきと鳴き声に意識が埋め尽くされるようになってくる。彼方の若者は影のように固まってしまい、猫虫の声に圧されてざわめきは聴こえないが、葉桜は風にうごめいていた。

河原の石のかわりの猫虫は、その間(あわい)から流れ出した血に、せせらぐ川も赤く煙らせて。
そうだ、みえる。きみは髪を顔にまといつかせ、風はきみの髪をなびかせている。
なにもかも捨てたわたしの足下に猫虫の骨に滑り破れる皮は頭蓋骨を剥きだし、内臓は潰れ、鳴き声も潰れ、いつのまにか暗雲垂れ下がり葉桜の影に沈んで、きみはわたしを待っているはずだ、、、止まるわけにはいかない、わたしは、、、にゃんにゃにゃ、にゃんにゃんにーーーーっ
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