June Bride Snake Hat

文字数 643文字

彼女は交通事故のために、体のほとんどの部分を失って式場に到着した。
奇跡だった。
花嫁の両親は待ち受けていた会場に、娘がそのような姿で現れたので、卒倒しそうになりながらも、ヨロッ、ヨロッと、むしろ彼らのほうが心配だとおもわれる状態で、彼女に近寄っていった。
その義理の父母になろうとする者たちをかまってなどおれず、花婿は彼女にか駆け寄った。
「どいてくださいお父さんお母さん、もう床にでも横になってください」といいながら。
花嫁は体のほとんどを失ってしまっていた。だから、彼が肩を抱こうにも、肩はない。パントマイムのような感じで、ないものをあるものとして想定して、彼女の肩のあるべき場所を丸く腕でかこいこんだ。
そんなふうにして、式は滞りなく終わったのだった。
そのあとの宴席でも、口はないものの、花嫁の前に供されたフルコースは、少しずつ減った。体が全部そろっていたとして、こういう場では、形ばかりしか料理に手をつけないものである。だからその点、不自然ではなかった。
その間(かん)、警察がやってきて、「体の大部分は現場に残されているのだが、どういうことか。なにが起きているのか」と調べた。
「しかし本人はここにいて、ほら、式は滞りないんですよ」と親戚たちは警官たちに状況を説明し、十全に納得したのではない彼らに「今日のところはどうか。めでたい日ですから」とお引取り願った。「事務的なことは後に願います」と。
式に出られたのは体の数パーセントではあったものの、まさに華燭之典であったものと伝え聞くものなり。
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