、、、吉祥寺(4)

文字数 471文字

濁音のついた「アァーーっ!!!」を叫ぶには、私は消耗しすぎていたといってよい。
腐った味のする、つまりは腐っていたにちがいない焼きソバを食ったりするのではなかった。HRのために教室にむかったりするのではなく、学校など気まぐれに放擲して自宅に帰るなり、朝キャバに出かけるなりすべきだった。そもそも教師になどなるのではなかった。
私は人生の最初の一手をまちがってしまったのだから、いまさら修正しても仕方あるまい。口元と鎖骨・胸元あたりの焼きソバを掌で拭い払うと、廊下を少しく歩き、隣の教室をのぞいた。
ICUだか上智だかを出た、新卒のショートカットの国語教師が中原中也の詩を朗読して聴かせている。

頭倒(あたまさか)さに手を垂れて
汚れ木綿(もめん)の屋蓋(やね)のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

まずい、また口から焼きソバが。
新任きれいな教師がわたしを振り返る。私はゲホゲホ咳き込む。彼女が教科書を教壇の机に伏せ、わたしに近づいてくる。
「どうしました?」という彼女の口の動きがみえる。私は焼きソバに足をすべらせながらクルッと背をむけると走り出していた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み