第14話 なかなかそそるもんあるな…

文字数 1,302文字

 わたしが椅子の横につっ立っていると、

「ユウキちゃん、そこやない!こっち、こっち!」

って茜さんに促され、なぜか別の椅子に座らされた。そしてさっきまで座ってた椅子に、茜さんが、「ヨッコラセ…」と腰かけた。

「なんで茜がそこに座るん?あんたの椅子、こっちやん…」

ってお母さんが、今わたしが座っている椅子を指差しながら呆れ顔で言うと、

「いいの!ユウキちゃんに悪い虫がつかないように守ってあげんの…、ウフッ!」

て、口元で両手を握りながら憲斗を見た。

「可愛い子ぶんな、アホ!だいたい悪い虫って誰やねん、姉貴が独り占めしたいだけやろ…」

「おっ、憲斗、焼いてんねや!可愛いとこあるやん!でも、ユウキちゃんはウチのもんやから」

「アホか」

 確かに今の場所、憲斗から一番遠いんだよね…

   憲斗~!

 そしたらさ、お母さんまで目を輝かせながら

「姉貴が弟の恋人略奪するってのも、なかなかそそるもんあるなぁ…」だって!

 エッ、お母さん、本気で言ってんですか?って驚いてると

「せやろ!おもろいやろ?あんま聞かんよな?」

「おもろいっ!さすがウチの娘や!茜、あんた頑張りや!」って…

 お母さん、何頑張るの???


 でもね…本当に楽しかった…
 茜さんとは秒単位で直ぐに仲良くなれた。明るくて話が面白い。それに外見だって大阪の素敵な歳上女性って感じで魅力的。 盛んに、“ユウキちゃん、可愛い、可愛い” って言ってくれるんだけど、わたしなんかよりずっと綺麗で大人の魅力に溢れてると思った。どことなく憲斗に顔の雰囲気が似てて…そこも好き。

 食事の間もずっと笑いっぱなしだった。お母さんの作ってくれたご飯、とても美味しかったし、ずっと話が絶えなかった。
 ユウキちゃん、おもろいわぁ!って言われて、調子こいてめっちゃ喋ってた。 
  
 大阪の女性って楽しい。話の振り方や返し方がとっても奇抜で面白いんだ。よく話に聞く大阪の女性のノリ、あれ大袈裟じゃなかったんだね。ホンモンじゃん!東京の女性とはまた違った魅力を感じて新鮮だった。茜さんだって、美優みたいな素敵な女性と比べても、また一味も二味も違った魅力がある。この時ふと、美優もこの場にいたらなぁ…って思った。 

 憲斗はあまり喋らなかったんだけど、一人寂しく仲間外れ…って訳ではなく、三人がワイワイ話してるのを見て楽しそうに笑ってた。会話を聞いて…、というより、みんなが楽しそうに会話してるのを “見て” 楽しんでいる感じだった。その視線、感じてました。
 それに、わたしの舌っ足らずな (意味不明な…) 話に、ちゃんとフォロー入れてくれる。それがどれも憲斗らしい温かみのあるフォローなんで、思わず…なんて気持ちになることも。

 ユウキが来てくれたら、うちのドンヨリした空気もだいぶ明るなるやろ…

 昨夜、憲斗が漏らしたセリフがふと蘇った。
 何があったんだろ…
 こんな素敵な、こんな明るい家庭にも、いろんな問題があるんだね。お姉さんやお母さんたちを見ていると、暗さとは無縁の家族にしか思えないんだけど…
 でも、だとしたら、たとえ微力でも、ユウキは力になれたんだ。
 みんなの楽しそうな笑顔を見ながらそう思った。
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