第11話 憲斗のカラダの厚み

文字数 1,167文字

 シオン先輩の話は続いた。いや、なんかよく分かんないけど続いていた。
 "ユウキ"って名前が度々登場するんで、多分、自分にめっちゃ関係ある話なんだろなぁとは思ってたけど…

 あのさあ、憲斗、今、腰に手を回して、僕を抱くようなかっこうで、熱心にシオン先輩の話に聞き入ってんだよね。その横顔が妙にセクシーで…、しかも腰に触れる手の感触が憲斗らしい優しさっていうか何と言うか…
 とにかくヒメ、完全に固まっちゃって、シオン先輩の話どころじゃなかった。正直まったく聞いちゃいなかった。
 
 汗と制汗剤の入り混ざった匂いが、男っぽくて刺激的。もうクラクラする…。それにね、筋肉ヤバいよ…。スリムだから服着てると分かんないけど、こうやって抱かれてると前よりゴツくなったの分かる。体の厚みが伝わってくるんだ。胸に顔埋めたいけど、んなわけにもいかないし…
 今日の為に、日々ちゃんとトレーニング続けてきたんだね。感心します。

 で、さっきからシオンちゃんの話の中に、頻繁に"ユウキ”ちゃんが登場してる。話の脈絡まぁったく掴めないけど、“ユウキ”ちゃん、やることいっぱいで、楽しそう。
 ま、憲斗が代わりに聞いてくれてるから大丈夫だよ、きっと。

 でもさ、そもそも、憲斗が悪いんだよ!腰に手なんか回しちゃってさあ…。こんなんで、シオンちゃんの話、聞けるわけ無いじゃん。手、のけてよね!
 って、のけないでほしいけど…

 そんなときシオンちゃんの最後のセリフだけがはっきりと耳に届いた。

「じゃあ、以上の変更踏まえて、撮影再開しまあす!」

 同時に憲斗も僕から手を離した。
 憲斗、僕を見つめてる。
 僕も憲斗を見つめ返す。

「じゃあ、いきまあす…、ハイッ!」

 パチーン!!

 撮影開始の合図が心地よく辺りに響き渡る。

 よし!集中!
 僕と憲斗見つめ合ってる。
 うん、良い感じ、とっても…

 でも、ん?
 で、次どうすんの?

 沈黙…

 早く誰かセリフ言ってよ…
 静かね…
 憲斗、怪訝な表情浮かべて僕を見つめてるし…
 シオンちゃんは、こっち見てるし…
 ってか、あれっ?
 まさか…
 もしかしてぇ?

「カアット!!」

 シオンちゃん、今度はとっても悲しそうな顔で、
「あのさあ、ユウキ…、俺の話聞いてたぁ?」
だってさ。

 いいや…って首振って微笑んであげた。
 そしたら、シオンちゃん、さっきよりもっと悲しそうな表情浮かべて、
「まさか、ぜんぜん聞いてなかったぁ?」
って言ってくるから、

 うん、ぜんぜん!って元気に微笑んであげた。
 そしたら、みんなから大爆笑された。ギャラリーたちからも…。
 シオンちゃんだけ、ガックリうなだれてる。
 かわいそう…、よしよし…
 シオンちゃん、ドンマイ!
 
 って、だからさ、聞ける訳ないじゃん!
 文句なら憲斗に言ってよね!

 近くで一部始終を見ていた美優は、お腹抱えて笑い転げてるし…


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