第8話 大勢に囲まれて

文字数 1,049文字

 憲斗の住む町の駅に到着。
 改札口を出ると直ぐに、憲斗が再び手を差し伸べてきた。まだ外はとても暑かったけれど、僕もその手を握り返し、ササッ…と左側に寄り添った。
 手を握るの今日で何回目だろ?その度にドキドキして、会話はチグハグで噛み合わなくなる。

 阪神の…大谷翔平君がさ…
 
 またPK…決めたん?

 うん…3点シュート…

 へえ…やるなあ…羽生君…
             みたいな…

 だからもう会話するの諦めた!
 無理!
 駅前の広場を、手つないでただ歩くことにしたの。
 でも、それで十分でした…

 プラプラ歩いてると、前から同い年くらいの男女数人のグループがやって来た。こっちに近づいて来るにつれ、ガン見してくるのが分かる。それで何となくバツが悪くて目を伏せたんだ。そしたら、次の瞬間…

「おっ、やっぱ憲斗やん!」

って声が聞こえた。エッ!て思って目を上げると、

 ほんまや!憲斗やん!
 おおっ!憲斗ぉ!

って、次々に憲斗の名を呼ぶ声。

「うわっ!ヤバッ!見つかってしもた…」

 憲斗がそう言う間もなく、みんな走り寄ってきた。

 あれっ…、お友だち…?

 僕らは手を握ったままみんなに取り囲まれた。男女3人ずつ、計6人。最初は驚いたけど、みんな優しい笑顔なので安心した。
 憲斗もね、笑ってた。

 男の子の一人が、

「憲斗…、あ、あのぅ…、まさか、この綺麗な子が…、こないだ言うとった…ユウ…キ…ちゃん?…」

って、吹き出してしまいそうなほど目をまん丸にして言った。すると、憲斗は珍しく顔を赤らめて小声で呟いた。ああ、そうやねん…、って。

 それからは大騒ぎだった。

 マ、ジ、かぁ!
 めっちゃ、可愛いやん!

て、みんな一様に驚きの言葉を口にした。
 憲斗は照れながらも、さっきより強く僕の手を握りしめてくれた。
 こういうところがね、憲斗の好きなところなんだ…
 だから僕も強く握り返しました。
 その様子を目にした黒髪のポニーテールの子が、

「初めまして、ユウキちゃん。ウチ、優夏言います。ユウキちゃんのこと、憲斗からいろいろ聞いとったんやけど…、ホンマ、憲斗の言う通りやわ…、めっちゃ可愛いですね!悔しいなぁ~、どないしてくれるねん!」

って、悔しそうな表情を浮かべながらも、可愛いらしい笑顔で言ってくれた。みんなも、

 憲斗、惚れるのわかるわ!
 やるなあ、憲斗!
 ほんま、ええなぁ!

なんて口々に言ってくれた。

 憲斗…
 僕のこと、みんなに喋ってたんだ…
 でも、許します!
 良い感じに話してくれてたんだね…
 ありがとう

 暫し、みんなと立ち話。
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