第5話 お城で芋焼酎を

文字数 1,247文字

 まず案内してもらったのは、憲斗が言うところの、生粋の大阪人ならもはや感動などあり得ないという「THE大阪」。それって、グリコの看板があって、お堀に橋が架かってたりする所。
 でもね、僕は大阪人でもなければ、もちろん”生粋”でも無い。だから、正直メチャ感動した。感嘆詞いっぱい口にして、あっちこっち指差し確認しながらワイワイ騒いでた。憲斗も楽しそうにいろいろ教えてくれた。お陰で直ぐにいつもの二人に戻れた。真顔でスットボケタ質問を連発していたみたいで、憲斗にたくさん突っ込まれた。
 一通り散策し終えると、電車に乗って別の場所へ移動。

 改札を出た瞬間から、言葉にできない不思議な懐かしさに包まれた。あちらこちらで、暖かい何かが光を放ち、包み込んでくる。でも、聞こえてくるのは異国の言葉。
 何だろ、この空間…

 駅の高架下に広がる、無数の古い商店の群れ群れ。暗闇と眩い光の交錯する世界。置いている服も、売っている食料品も、東京で見かけないものばかり。頭上からは、絶え間なく電車の音が響いてくる。
 この上走ってるのJRだよね?もしかして外国の電車?
 タイムスリップしたような、異国に迷い込んだような、ちょっとした困惑を覚える。そんなとき、

「ユウキ…」

って、憲斗が立ち止まって手を差しのべてくれたんだ。もちろん、しっかりとその手を握り返しました。
 ありがと…
 憲斗の手を握り締めながら、お伽の国に広がる古い市場の、心地よい雑踏に揉まれていた。二人で知らない市場の通りをあてもなく彷徨している…、このまま行くと、ヒメが住んでるあの王国のお城に着くのかな…、到着したらもっと近くに寄り添って互いの唇と唇を…、なんて一人、空想 (妄想) に耽ってた。
 ずっとこの手、握っていたい…

 でもね、そんなロマンチックな思い (妄想) に浸っていた時、憲斗がヒメの手を引いて入っていったのは、お城じゃなくて、なんと ”酒屋さん”!しかも、これでもか!ってほど “The昭和” の雰囲気漂う古風な造りの“酒屋さん”!
 今どきこんなお店、見ないよ…
 ただね、中へ入るとびっくりした。お店の中は想像した以上に広く、見たことのないお酒が所狭しと並んでいた。
 やっぱ、ここって不思議な異空間…
 
 ユウキ、どれが飲みたい?って聞いてきたんで、遠慮なく、アレとコレとソレ!って指差した。そしたらね…、全部買ってくれたの。
 これからヒメとゴロツキの勇者二人、お城でマッタリと酒盛りしながら、ああだこうだクダ巻いてんのかな?それで酔ったユウキちゃん、憲斗にもたれかかってそのまま唇を…
 うん、それ良い!絶対良い!
 で、ヒメも、そんな “恍惚感?” に酔う余り、店を出るや、隣のお店の店頭に並んでる “ラッキョ漬け” 買ったんだ。美味しそうだったから。衝動買い。

「お前、なんで今そんなん買うん?」

って、目をまん丸にして驚かれたけど、美味しそうだからに決まってんじゃんね。

 これからお城で憲斗と二人、ラッキョをおつまみに、大好きな芋焼酎飲むの!
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