第9話 ンシャアァッ!

文字数 1,187文字

 ヒメを前後から挟む形で守備陣営が築かれる。激しい敵の攻撃をすべて、2人が見事な剣さばきでかわし切る。後でCGによる加工も施されるんだけど、2人の動きの機敏さやバランスの良さは、隣にいるだけで伝わってくる。
 迫力だってハンパない!
 2人ともよくこんなアクションできるよね。ホント、プロ顔負けだよ。

 で、ヒメはね…突っ立ったままラスボス兵藤先輩をしかめっ面して上目遣いに睨みつけてるの。

(カァット!って、シオン先輩の声)

 ギャラリーから拍手が起こる。
 ふうっ…て、ちょっと一息。
 兵藤先輩、なぜか申し訳なさそうに僕にアタマ下げてる。
 あらっ…、なんかビビらせちゃったかしら…
 そんなつもり無かったんだけど (ウフッ)
 ハーイ!って笑って手を振り返す。


 僕たちが休憩している間も、次のシーンに備え、中央に台が持ち込まれ、その周りに巨体なトランポリンが設置されようとしている。暑い中、舞台美術担当のスタッフたちはみんなたいへんだ。
 感謝致します。
 で、こっからの場面、マジ怖いんだ…

 ヒメは設置された中央の台の上に立って、偉そうに腕組んで、バカデカい扇風機に髪なびかせながら、ラスボス兵藤先輩を上目遣いに睨みつける。ちょっと不敵な笑みを浮かべたりなんかしながらね。
 その周りを憲斗や美優がトランポリン使って、これまで以上に激しいアクションを繰り広げる。ヒメの頭上で、2人が交錯したりするんだ。しかも、回転したり体捻ったりしながら。
 恐っ…
 汗の飛沫が降ってくる。ヒメは扇風機に当たって涼しげに見えるかもしれないけど、ライトを4方向から集中的に浴びせられてるから結構暑いんです。加えて、微動だにせず突っ立ってるってのも、意外と怖いんだ。頭上で何起きてるか分かんないんからね。

 それんしても、この2人、運動神経ハンパないよ。目の前で二人の像が目まぐるしく交錯する。
 美優は女性らしいしなやかで優雅な動き。一方憲斗は一つ一つの動作が大きく、ダイナミックで力強い。
 女性らしいしなやかさと、男っぽい激しさとがうまく調和して、アクション全体に厚みが増す。
 なんか、頭の上で飛んだり回ったりスンゴイことが起きてるみたい。

 で、ヒメはって言うとね、2人が激しく飛び回ってる下で、前より怖い顔しながら、ラスボス兵藤先輩に向けて、ンシャアァッ!て叫んで右手を前に突き出すの。

 あのね、右の手のひらからね…

 って、いいの!もう!!!
 ヒメはリアリティーに貢献してんだから!
 だいたい、2人みたいなアクション、ヒメにできるわけ無いじゃん…

 そんでもってこの "ンシャアァッ!"ってやつ、後で一年生女子たちにさんざ真似されて、ユウキ先輩かわいいですぅ!なんて言われたりしてさ…。それだけならまだしも、シオンちゃんにまで、これ見よがしに、ンシャアァッ!とかって調子こいて真似されて…、ほんと、マジ、ウッザ…
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