第1話 合宿、初日

文字数 1,033文字

 
 夏合宿。
 今年も僕は、"女優"ユウキとして参加する。
 ただ、去年とは大きな違いがある。
 それは、僕は本気で“女優”を演じる、ということ。この本気度、去年とは格段に違う。

 僕は女優です。
 誰に何と言われようとも。



 白樺の木立に囲まれ、湖畔にたたずむ洋館のプチホテル。
 今年もすべての班と部員一同ここに集結した。
 OBの一族がこのホテルを経営しているそうで、毎年貸し切りで使わせてもらっている。
 大学の合宿にしてはオシャレ過ぎる空間だけど、ありがたいことにその分楽しみは増す。

 初日、昼前に到着してホテルで昼食を済ませると、早速撮影が始まる。撮影は近くの廃校の敷地内の体育館を改修してつくられた施設で行われる。本格的な機材が搬入され、大掛かりなアクション撮影も予定されている。
 食事を終え、ちょっとした打ち合わせをした後、美優と二人、みんなよりも多少遅れて現場へと向かった。

「始まったね。」

「うん、ワクワクする。」

「僕もワクワクする。けど…、美優、さすがだね。」

「ん?どうして?」

「だってさあ、美優、今からあんなに難しいアクションやんなきゃなのに…、不安じゃない?」

「ぜぇんぜん!楽しみだよ!」

「それがさすがだっつうの…」

「ユウキもやってみれば?」

「できるわけないじゃん!回転する前にズッコケて、膝擦りむいて、ワンワン泣いて終わりだよ」

「大丈夫!そしたら憲斗が寄ってきて、ちゃあんと膝舐めてくれるから!」

「またぁ…、犬じゃないんだから…」

「ついでにユウキのその真っ白なツルツルの腿も、ペロリンと…」

「コラァッ!」

 確かに今着てる撮影用の白い衣装、丈が短すぎて、太腿マル見えなんだ。恥ずかしくてとてもこのままじゃ外歩けないんで、ちょっと夏用の薄い青のロングガウンを上から羽織って足隠してる。ただ、視線さえ無ければ涼しくていい感じ。
 白樺林の木洩れ日の中、バカ話にワイワイ花咲かせながら肩寄せあって進んでいった。並木に囲まれた細い林道を吹き抜ける高地特有の風がとても心地よい。日差しも今日はそれほど強くない。
 気持ちいい。
 美優と二人だし。
 快感。
 そんなとき…

「おっ、憲斗いるじゃん!」

 前方彼方、一年生のひなちゃんと並んで歩く憲斗の姿発見。二人肩並べ、仲良く笑いながら歩いている。

「楽しそうだね…、ユウキ、ピィンチ!
 今から走ってって目の前で転んじゃいな!そしたら…」

「やめてよ、もう…」

 でもね、ちょっと気になる…かも
 確かに、すんごい楽しそう
 何話してんだろね




 
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