第11話 わたし…

文字数 617文字

 憲斗の腰に手を回し、その広い肩にもたれかかった

「わたしも憲斗のこと…」

そっと囁いた言葉に、いつもの一人称は出てこなかった。お気に入りの一人称の代わりに口をついて出たのは、わたし…。それも驚くほど自然に唇から漏れた。

 別に女の子になろうとした訳じゃない。憲斗を気遣った訳でも、自分に引け目を感じた訳でもない。ただ純粋に、今の“わたし”に一番相応しい一人称だから
 わたし…
って囁いた。
 何度も口にした言葉だけど、こんなに違和感なく言えたのは初めてだった。こんなに素敵な言葉なんだ…って初めて気づいた。

 もう一度言いたくて憲斗を見上げた。
 でも笑顔が溢れた次の瞬間、唇を奪われ、言葉は憲斗の唇に吸い取られた。
 両手で力いっぱい抱きしめられた。

 憲斗とキスするのは初めてじゃない。
 ただ、いつもより大胆。
 実家だと安心するのかな…
 今日は、わたし…の方がずっと冷静。
 そんなこと思いながら、精いっぱい背伸びして、厚い背中にしがみついて、一生懸命キスに応えた。
 幸せでした…

 唇が離れる僅かな間に、いろんな言葉を発する。それからまた激しく唇と唇を重ね合う。暫くしてその動きが止まると、唇を微かに触れあったまま互いに短いセリフを口にする。息がかかるのを感じてまた求め合って、さっきより一層激しく…
 その繰り返しでした…

 唇から漏れる言葉は、「わたしも…」
 気持ちが素直に言えた。
 だから、伝わったのかな
 口にする度に、前より強く抱き締めてくれた
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