第1話 Last Smoking to After Coffee Break

文字数 924文字

 事件から四日後、高野内はある場所を訪れていた。
 夕陽も沈みかけていて、カラスの鳴き声が郷愁を誘う。今回はレンタカーではなく、小夜子の父親のセドリックだ。どちらにしても借り物に変わりはないが。
 ナビを頼りにようやく目的地まで到着すると、ガソリンメーターのランプは給油を促していた。帰るまでにはガソリンスタンドの場所を確認せねばなるまい。
 高野内は駐車場に車を止めると、外に出て、店を眺めながらフィリップモリスに火をつける。
 やがて暮れゆく太陽を斜に眺めながら、灰になったそれを足でもみ消す。店の入り口にある店休日を確認すると、やがて準備中の札のかかった扉に手をかけた。

 カランコロン。
 BGMは鳴っておらず。店内に客の姿はなかった。
「……すみません、営業はまだでして……あっ!」
 店の店主は高野内と目を合わせると、眉を寄せながら会釈を交わした。店内を軽く見廻すと、高野内はカウンターに歩み寄り、準備中にも関わらず無遠慮に話を切り出す。
「この前はどうも。お変わりありませんでしたか?」
「ええ、おかげさまで。高野内さんこそ元気そうで何よりです。あれからまだ四日しか経っていませんから当然ですけどね。今日はお一人ですか? 助手の峰ヶ丘さんの姿が見えませんけど」コップに水を注ぎ、カウンターへ置く。
「あなたと二人だけで話がしたかったんで、置いてきました。本当は直ぐにでも来たかったのですが、車を手配するのに時間がかかりましてね」
 高野内は中央の席に腰を据えると、コップを傾けた。
「今日はどういったご用件でしょうか? あなたと話すことは何もありません。正直いってあの事件の事は思い出したくないんです」
「お気持ちはお察しします。ですが、これからどうされるのかと気になりましてね」
「別にこれまでと変わりません。今回の件は辛い経験でしたが、ようやくそれを乗り越える覚悟が出来たのです。私のことは放って置いてくれませんか」帰ってくださいと言わんばかりに、ドアの方に視線を向ける。
 だが、高野内は動じない。自分が歓迎されないことくらい、ハナから想定内だ。
「そうもいきません。私は知っているんです。この事件の黒幕があなたであることを」
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