第2話

文字数 1,304文字

 まさかという顔を浮かべる。だが、直ぐになんでもないような表情を作り、深呼吸をしながら軽く背伸びをすると高野内をあしらうように鼻で笑った。
「高野内さん、いくら何でも聞き捨てなりませんね。あの事件はもう終わったんですよ。それを今さら何をほじくり返そうとしているのです。私も暇じゃありません。もう帰ってください!」
 そう言って高野内を邪魔者扱いするように、不機嫌な表情を見せながら下を向き、カクテルグラスを拭き始めた。
「なら警察に真実を話してもいいんですね。それとも水無瀬……いや竹野内が言っていた組織の連中でも構いませんが」
 手を止まり、高野内を馬鹿にするように、もう一度鼻で笑う。苛立ちを隠そうともせずにつま先を何度も踏み鳴らした。
「言いたいことがあるならはっきりとおっしゃって下さい。私が黒幕とは一体どういう意味ですか?」
「黒幕は言い過ぎかもしれませんが、あなたが協力者であることは間違いない。私が推理をしていた時、Xの話をした事を憶えていますか」
「ええ、結局はXなんて人物は、存在しなかったんでしょう?」
「その通りです。竹野内は完全なる単独犯で、Xなんて仲間は初めからいなかった……そう思わせるのが、奴の狙いでした」
「違うとでも?」
「考えてみてください。あの時水無瀬――竹野内は夜が明けたら店を出ると言っていましたよね。それからどうするつもりだったのでしょうか?」
「そんなこと知りませんよ。あの中の誰か――、もしかしたら私だったかもしれませんが、その誰かの車を奪って逃走する腹積もりだったのかもしれませんね」
 苛立たしいのか、今度は歯ぎしりしながら如実に嫌悪感を示している。
「本当にそうだったのでしょうか? 奴はもう口がきけませんから真相は藪の中ですが、私ならそんなことはしません。仮にあの中の誰かの車を使ったのであれば、直ちに警察が検問を張り、ナンバーから車を割り出してすぐにでも確保されたでしょう。あれほど用心深かった竹野内がそんな危険な真似を犯すとは、とても考えられません。それに、既に車の鍵を手に入れているんですから、逃げようと思えば、いつでもできた筈です」
「ではどうするつもりだったと? まさかタクシーを呼ぶつもりだったなんてオチじゃないでしょうね」
「似たようなものです。本当は実在していたんですよ、仲間のXが」
「……そのXが私だと?」
 断りもなく灰皿を引き寄せると、高野内はフィリップモリスを取り出す。しかし、いざ構えたものの、火はつけずにいた。
「……竹野内は大金を強奪した経緯を話した際に、恋人の話題に触れました。スナックで知り合ったバツイチの彼女がいると。その彼女こそがあなただった」
 戸惑いを見せる彼女に、高野内は追い打ちをかけた「あれ? 今日はホクロがありませんね。眼鏡もかけていないし、髪の毛も急に伸びたようだ」
 高野内はフィリップモリスを薦めたが、彼女は自分の気に入った銘柄しか吸いませんのでと首を振る。以前、煙草が苦手な素振りを見せていたが、やはりあれは演技だったのだろう。

 すると“五反田”は髪をかき上げ、蔑んだ目で高野内を睨んだ。
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