第21話 ノッティス
文字数 1,216文字
自らの玉座に座ったヒルダはデガータからの手紙を読み上げた。
そばにアイヒとイガール、ドライデルが立つ。
重要な報告の際はいちいち会議室に集まったりせず、玉座のある広間に集まるのが魔王一族の習慣であった。
先代の魔王、サンゲルが始めた習慣らしい。
広間は城の中央に位置するため、各人の持ち場に向かいやすい。
「北国ウッドラントは長年目の上の瘤でした、簡単に落とせると分かったのは朗報にございます。」
アイヒが、自らの髭を撫でながら言う。
この場では最年長なのでウッドラントの脅威が身に染みてるのであろう。
もっとも、敵を侮らない慎重な彼の性格を表しているとも取れる。
「でも、サミュエルを取り逃がすなんて。どうしてあげようかしら?」
眉をひそめて三人に尋ねるヒルダ。
魔王軍における彼女の権限は絶大である。
ヒルダもそのことは十分に理解しているのでまず独断専行せず幹部に意見を尋ねるのが癖であった。
総合的に判断して、ベストだと思われる策を抽出する、リーダーとしての才覚が彼女には備わっている。
「・・・このまま潜入を続けさせるのが最善でしょう、どうやら各国の最新情報が逐一手に入る立場に身を置いた様子。」
ドライデルが腕を組みながら言った。
ドライデルとデガータの付き合いは長いが浅い。
ビジネスパートナーとしての親密度の域を出ない付き合いだ。
最も、お互いに高評価を下している点は共通しているが。
「そうですねえ・・・。連絡に使っているカラスはアタシの使いでもございます。もしお気に召さない事態になった場合、すぐにでも大群を差し向ける事ができますよ。一晩もあれば骨の山が出来上がるでしょう。」
イガールが笑みを浮かべて言うとドライデルがすかさず憤慨する。
「それは最終手段であろうに。結局は敵味方の区別なく襲う烏合の衆だ。私の使役する飛龍を飛ばせばデガータ殿のみ助け出す事ができる。」
ドライデルが言う。
同じ空を飛ぶ種族としての同族意識が強い彼らは、長く深い付き合いである。
お互いに感情を露わにして意見をぶつけあうことができるのは、良くも悪くもある。
「姫様、策はいくつかございますがどれも時期尚早かと。」
アイヒが間をとりなすように提言する。
彼の魔王軍での立場を代弁する行為である。
このような調整役を自然とこなすには、やはり年齢から来る経験が物を言うようだ。
大きくあくびをしたあと、ヒルダは言う。
「まあ、デガータならまだまだ手紙を送ってくるはずよ。わたしを喜ばせるような事が書いてある手紙を。」
決まった習慣を守るのがヒルダのクセである。
飲食や就寝の時間はあらかじめ決まっているので、知ってか知らずか、側近も彼女の行動パターンは掴みやすい。
「さて、もう寝るわ。お休み。」
お辞儀をする三人をよそに玉座の間を後にするヒルダ。
「・・・手筈だけ整えておいた方が良いだろう。二人とも、よろしく頼む。」
アイヒが二人に向き直って言うと二人は頷いた。