第38話 トリステザ アレグリア
文字数 1,572文字
しかし、今度はカテリーナが気まずい様子でメグに尋ねた。
「・・・そのご夫婦に何があったのかしら?」
事実を伝えるのはもちろんはばかられるので、メグことデガータは少し歪曲して伝える事にした。
「ご主人は事故に遭い、ある日突然、亡くなってしまいました。」
「当時奥様はご主人のご息女を身に宿しておいででした。」
「まあ。お辛かったでしょうに。」
「ですが気丈な方でしたので無事にご息女を出産なさり、大切に育てられました。」
「もちろん、私も微力ながらお手伝いした次第です。」
「そんなに謙遜しなくても良いのに、メグは素晴らしいわ。」
「ありがとうございます、もったいないお言葉です。」
「・・・それで奥様はどうなされたの?」
「ある日、奥様が職務中に倒れになられた、と聞かされたのです。」
「幼い姫様を連れて見舞いに行くと、私に、姫様を時には姉、時には母として支えて欲しい、とだけ伝えるとその日のうちにお亡くなりになられました。」
「そのお言葉を守り、しばらく姫様にお仕えし、ご成長を見届けました。」
「成人になられた姫様に侍女の任を解かれ、仕える主をなくした私は、この王宮へと推薦されたのです。」
「その姫様はお元気?」
「ええ、立派に成長なされています。」
「誰か、恋人か相応しい結婚相手は居るのかしら?」
意外な質問に呆気にとられてしまうメグ。
「何か私、おかしな事言ってしまったかしら?」
「・・・いえ、意外なご質問でしたので。」
言ってしまえばヒルダは復讐心の塊である。
それを果たすまでは煩わされたくないのでそういった事からは自分を遠ざけるように、ときつくデガータに言いつけていた。
「・・・今のところ、そういった方はおられません。あまり興味が無いご様子でして。」
「そう、じゃあメグ、貴方には?」
「私に、ですか?」
思えば、必死で職務に打ち込むあまり、そういった事からはすっかり遠ざかって生きてしまった。
「私にもございません。思えば、お話しした通り慌ただしい日々でしたので。」
「そう?そんなに綺麗なのに、すごくもったいないんじゃ?」
「・・・言い寄られるのが少しばかり苦手なのです。相手方にも悪気はないと頭では理解しているのですが。」
「分かる気はするわ。」
「じゃあ、もし、もしも私がここに居なくて、ミカエルが貴方に言い寄ってきたら?どうする?」
目を輝かせて尋ねるカテリーナ。
「・・・私はミカエル様をあまりご存知ないのです。」
「そうかしら?見たままの人よ?真面目で、正義感が強くて、あとは・・・背が高い!」
おどけて言うカテリーナ。
二人はクスクスと笑ってしまった。
「そもそも、侍女である私に拒む権利は無いかと。」
「うーん、じゃあ、もし貴方が、産まれてすぐミカエルの結婚相手になっていたとしたら?あなたはもちろんお姫様よ。」
「・・・お答えしなければいけませんか?」
「ええ、もちろん。王妃からの命令よ?」
「弱りましたね・・・。」
それとなく想像してみるメグ。
カテリーナとミカエルが一緒に居る場面を想像し、更にカテリーナの姿を自分の姿に置き換えてみる。
不思議と違和感がない。
メグとカテリーナは外見も、性格も、差異が多いというのに。
「・・・なぜかしっくりときてしまいますね?凄く不思議です。」
「でしょう?あなたったら実は凄くミカエルとお似合いなのよ!」
「知っているかしら?実はミカエルったら良くあなたの事を褒めているの。」
「レミアの時といい、私たち夫婦をそれこそ献身的に支えているものね?」
「仕事ですから。例えそうだとしてもよ?誰にでも当てはまることではないと思うわ。」
「・・・お片付けしませんと。」
空になった食器を慌てて片付け始めるメグ。
「あらあら、照れちゃったわ。ごめんね?メグ。」
悪びれる様子もなくカテリーナはメグに謝った。