第31話 森里を背にして
文字数 1,018文字
旅のメンバーは全員が朝食を終えると里の出口付近の広場に集合した。
エルフの鎧と兜を纏ったサミュエルはファルニールの父親、ガルムニルと地図を見ながら語りあっている。
話の内容は安全な旅路の確認と魔族に遭遇した場合の対処方法、緊急時にエルバールの里に連絡する手段などである。
フリードは落ち着いた様子でサミュエルの足下で伏せの姿勢を保っている。
エルンストは新調したブーツや背嚢などを実際に身につけ、感触を確認している。
その腰には真新しい双剣が鞘に収まって吊り下げられている。
ナンスは既にピカピカになったエルフの魔短刀を再び研ぎ直している。
彼女の傍らには山のような旅荷物が置かれている。
ファルニールは心配そうな様子の自分の母親と手を取り合って語り合い、そのすぐ側には旅装束のブルンニルが大剣を背負って立っている。
「では、そろそろ出発じゃ。」
地図を畳みながら一同全員に聞こえるように言うサミュエル。
一同は準備を終え、荷物を背負うと里の出口へと向かった。
「途中まで森の番人をするエルフが案内します。」
列の先頭でサミュエルとガルムニルが話し合う。
「かたじけない、本当は旅の仲間に加えたい所じゃが、そうもいかんだろうな。」
「ええ、彼らにも役目がありますので・・・。」
残念そうにガルムニルは言う。
「なに、心配はいらんよ。いざとなったら手紙を持たせたフリードを里か森の出口まで走らせる手筈じゃ。」
話の中で自らの名前が飛び出し、サミュエルの方を向くフリード。
新しい首輪には丸めた紙が入れられる筒が取り付けてある。
しばらく歩くと里の出口に到着した。
弓矢を携えたエルフが待っている。
「では、旅立つとしようか。数日の間本当に世話になったな。」
握手をする二人。
一同は番人のエルフに先導され、ガルムニルとその妻が見送るなか、里から離れた。
「あなた、本当に大丈夫なんでしょうか?」
不安な顔をしたガルムニルの妻が尋ねる。
「彼らなら心配ないさ、この数日間、準備をする彼らを実際に見ていただろう?」
頷く妻。
「個性的な面々だが、あれほど旅や苦難に慣れた人間はそう多くない。」
妻の手を握り、優しく語り掛ける。
「何か歴史を変えるような目覚ましい働きをするなら、彼らをおいて他には居ないだろう。」
そう断言するガルムニルの目には期待がこもっていた。
「娘夫婦が彼らの一員に加わったのは偶然とは私には思えないんだ。」
どんどん小さくなる一行の後ろ姿を見ながら、二人は語り合った。