第40話 レターフロムファー
文字数 834文字
ヒルダは自室でワタリガラスの足から手紙を取り、素早く目を通すと呟いた。
先ほど、デガータからの定時連絡を他の側近と批評したばかりであった。
デガータに対し、幼い時から抱いて居る複雑な心境が胸中を駆け巡り、目眩を感じて椅子に座り込んだ。
再び手紙に目を通すと、それを膝の上へと置いた。
(命を狙われている?私だけでなく、デガータも?)
訳が分からなかったが、記憶を頼りに事実を確認していった。
デガータをこの潜入に推薦し、準備を手伝ったのは誰か?
そして、私たち二人の命を狙うとしたら誰か?
一人しか居なかった。
思えば、生まれた時から、いや、それ以前から命を狙われていたのだ。
(しかし、なぜ?)
それが全くわからないし、理解が出来なかった。
姫を殺してどうしたいのか分からなかったが、デガータの命を奪った時は、以前よりも遥かに姫を狙い易くなるだろう、ということはなんとなく判明する。
今まで盤石で、何の欠落も無いと感じていた足下が急に針山へと変わるような気がして、ヒルダはますます気分が悪くなった。
そして、その人物は倒すのが難しいデガータに任務という不可避な役目を与え、自分から遠ざけることで目的を達成しやすくしたのだ、とヒルダは気づいた。
(・・・この城から離れる必要がある、それもなるべく早く。)
しかし、すぐには無理である。
ヒルダの命を狙う人物も積極的に妨害してくる事は容易に想像出来る。
その人に悟られぬよう、それとなく準備と訓練をし、その二つが整いしだい、城を離れなければ。
今すぐに返事をデガータへ届けたいが、難しいだろう。
ヒルダは現時点で自分の助けになりそうな城内の人物を思い浮かべ、その人物に向けて手紙を記す。
そして明日の朝、確かにその人に届き、命を狙う者には悟られぬ段取りを考えた。
この手筈なら確かに大丈夫そうだ、という確信を得ると、脇へ追いやっていたデガータからの手紙を再び手に取った。
もう一度内容を確認すると、開いた窓の側で塵も残らぬように高温の魔法で燃やした。