第22話 イン・ザ・ビーチ
文字数 806文字
野営する魔王軍の軍勢たちは、日々訓練と装備の手入れ、そして2日後に迫った大陸侵攻に備え、着々と準備を進めていた。
沖合では小型で高速の船に乗り込んだ鬼の精鋭と空中を飛び回り巡回する鳥人、そして飛龍に搭乗した竜人の姿がある。
特に旗などは立てていない大きなテントが浜辺にいくつも並んでいる。
それぞれ、どれが誰のテントなのかは事前に知らされていないと誰にもわからないだろう。
そのうちの一つに、鬼の一族の一人が入っていった。
「報告いたします、今のところ東西南北すべての巡回地点で怪しい動きはありませぬ。」
眼帯の男鬼が愛用の刀を手入れするスナギの側で言った。
簡単な椅子に腰かけ、非常に慣れた手つきで刀に油を塗り、静かに布で拭いていく。
すぐに手入れは終了した。
「相手側がこちらの動きに気づいた模様は?」
刀を鞘に収めながらスナギが尋ねる。
「今のところございませぬ、西国の偵察船もここ数日はなりを潜めてございます。」
すかさず答える眼帯の鬼。
彼はいわばスナギの側近であるが自らも戦場に度々、赴くため不在な場合が多い。
これは、妹との時間を少しでも邪魔しないよう、という彼なりの配慮でもあった。
「諦めたようでございますね。」
スナギの傍らで矢の鏃を磨きながらオナギが言った。
砂浜に敷物を敷き、その上にさらに敷いた座布団の上が今の彼女の居場所だ。
戦には全く不向きな着物を纏っている。
すでに大量の準備を終えた矢が矢筒に収まっていた。
「うむ、であれば良いが・・・。」
刀を帯に戻しながらスナギは不安げに言った。
スナギは、怖いもの知らずだが敵を侮る性格はしていない。
しかし、笑みを浮かべて妹は指摘する。
「姉様は慎重に過ぎます、常に肩の力を入れっぱなしでは思うように刀は振れませぬよ?」
微笑みながらオナギは言った。
唯一の肉親であるのでお互いの事は良く知っている。
「では、閲兵に参る。」
スナギは立ち上がると自分の陣地から出た。