『マインちゃんとイッヒちゃん、そして性なる犯罪者』

文字数 2,123文字

「またイッヒちゃん出てきましたね~。それにマインちゃんまで!」

「小学生なのに料理が上手そうな……ってそれは違うか」
「あらまあ。オタクなボケ担当は栞理ではなかったはずではありませんの?」
「教育テレビだぞ? あれもオタクネタだったのか!?」
「民放よりもよほど高度だときいておりますけれどねぇ……?」
「ほんとですよ! もー! わたしの専売特許とらないでください!」
「そんな専売特許をいつの間に取っていたんだ……」

とかなんとか言っている彼女たちの前に広げられた新しい節には「青ざめた犯罪者について」と書かれている。

ツァラトゥストラは、犯罪者と、犯罪者を問い詰めようとする裁判官(裁き手)とを例に取り、超人にとっての罪についてを解説をしている。

菅原(すがわら)ひとみはその冒頭の言葉に反応したわけである。

 諸君、裁き手よ、生け贄を捧げる者よ、獣が頭を垂れてうなずくまで、殺そうとはしないのか。ならば見よ。この青ざめた犯罪者はうなずいた。彼の眼にあるのは、大いなる侮辱だ。

「このような《マイン》『わたし《イッヒ》』など乗り越えられるべき何かにすぎない。わたしにとって、この『わたし』は、人間に対する大きな侮辱だ」。そう彼の眼は語る。

 彼がおのれを裁いたのは、彼の最高の瞬間だった。救いは、ない。すみやかな死のほかには。

「なにやらおどろおどろしくて、少しわかりにくいところですわね」

「ちょっと怖いかんじです」

「そうだな、このイッヒは以前でてきた自我(イッヒ)のことだろう。

 自我の命令によって罪を犯したことをこの『青ざめた犯罪者』はうなずいて認めた。ということだが、この犯罪者が、自分で自分を裁くのは良いが、それをこの『裁き手』が裁くのは大きな侮辱だ。と言っているかんじかな」

「なるほどですわ」

「すっごい、よくわかりますねえ」

「よく読めばわかるよ。この先に実は解説があるんだ」

「なーんだー」

「ツァラ殿、というかニーチェの書き方の癖かもしれないな、最初に大きくこれこれである! と命題を書いて、あとからなぜならば。というふうに細かく内容を書いている感じだ。よくそうした書き方がでてくるね」

「あー、それ、わかる気がします」


うっかりすると忘れてしまうのだが、実は小説家志望であるひとみにとっては、文章の内容より構造のほうがわかりやすいのであろうか?

 諸君はその犯罪者を「敵」と呼ぶべきだ、「悪人」ではなく。「病人」と呼ぶべきだ、「ならず者」ではなく。「愚か者」と呼ぶべきだ、「罪人」ではなく。

 そして君よ、赤い法服に身を包んだ裁き手よ。君が心の中でおこなった一切のことを声にだして言うならば、誰もが叫ぶだろう。「この汚物を、この毒虫を片付けろ」。

「この毒虫がっ! 汚物は消毒だァァ!!」
「だめですよはしたない。そんな言葉をうれしそうに使ってはいけません!」
「びゃー><」


(おこられたー!><)

言い古されていることではあるが、子供らが好きなアニメやマンガの言葉のマネをしてしまってけしからん等ということがよくある。子供的にもついつい慣れ親しんでいるマンガの世界の言葉をしゃべってしまうのだろう。(ひとみが何の漫画に慣れ親しんでいるのかは少々謎であるが)

小さなころから聖書に親しんでいるこの学園の生徒たちの中で、ニーチェの言葉を読む彼女たちが(とくにひとみが)何かを口走ってしまわないか、心配になってくる吾輩なのである。

「ツァラ殿もこのあたりでは毒気のある語り口ではあるな。

 ようするに、犯罪者は悪人ではなく病人であって……」

「♪こーころーがびょーきなーだけーなーのー♪」
「いや、歌わなくていいから」
「ちぇー」
「見た目は威厳のある装いをしている裁き手たちの心の中だって、毒々しいことを考えているのだろう。といっているわけだな、ここでは」

 だが思考と行為は別だ。行為の結ぶ(イメージ)とも別だ。それは因果の車輪でつながれているのではない。

 この像こそがこの蒼白い犯罪者を蒼白くした。彼がその行為をおかしたときに、彼はやってのけるだけの力があった。しかし行為をなしおえたあと、その像に耐えることができなくなった。

「行為をおかす!! やってのけるだけの力があった!」
「そしてなしおえたあと、やっちまったと後悔して青ざめてしまいます!!」
「きゃー!」
「やーん!」

「いやいやいやいや……、そんなこと言っていないだろう……と、いや……、まあ、でも犯罪なわけだし、あながち間違いでもない、のか……?」


「過ちをおかすっ!?」


「いや、もういいから」


 そのときから、彼は絶えずみずからをその犯罪をおかした者として見るようになった。わたしはこれを狂気と呼ぶ。例外行為を、みずからの本質とみなしてしまったから。
「一度ヤッちまったら犯罪者になってしまうと……」

「どこにも性の字ないだろう!

 ともあれ、犯罪をおかした本人が自分の本質は犯罪者だと思ってしまうことをツァラ殿は狂気といっているわけだ」

った犯罪者、怖いですわ」
じゃないから!」
<つづく>
冒頭のシーンはお師匠さまによるファンアートです♡


※途中の謎歌は、

『ナースエンジェルりりかSOS』、『りりかSOS』 作詞:秋元康(!)より


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登場人物紹介

敬聖学園図書委員。菅原《すがわら》ひとみ です!

明るく元気な一年生! たまに騒ぎすぎて先生に叱られてます。

うちの学園の図書室ってすごい大きいんです。礼拝堂の裏にある4階建ての建物が丸々「図書館」なんですよ。すごいよね。地下室もあるって噂もあったりして。

小早川栞理《こばやかわ・しおり》と申します。

何やら図書室の主だとか超能力者だとか名探偵の生まれ変わりだとか……。

色々と噂されているようですね。その上、二重人格だとか……。

ーーー

ふん、この切り替えは意図してやっていることだ。他人にどうこういわれる筋合いはないな。


(親しい人の前では男っぽくなります。その理由は本編をどうぞ)

早乙女《さおとめ》れいか です。

自他共に認める栞理の大親友。栞理のいるところれいかあり。

栞理の頭脳と我が家の財力があれば、大抵のことはなんとかなりますのよ。


押忍! ワガハイが新聞部部長、柏野《かしの》ようこである! 


嘘である!

にゃはは。本当は図書委員でーす。壁新聞担当! でも、学園イチの情報通とは私のことよん!

噂話から真実の報道までなんでもリサーチ! 情報はおまかせっ!

『ツァラトゥストラかく語りき』河出文庫、佐々木 中 訳

2015年8月10日初版発行

菅原ひとみが選んだ最もあたらしい翻訳のツァラトゥストラ。

雰囲気的に「さん」付けで、愛称は『ツァラさん』


※作中の引用は2015年8月10日初版による。


『ツァラトゥストラ』(上・下) 光文社古典新訳文庫、丘沢 静也 訳

2010年11月20日初版発行

早乙女れいかのペアブック。現代風に再翻訳された読みやすさに定評のあるツァラトゥストラ。

愛称は『ツァラちゃん』


※作中の引用は2010年11月20日初版第1刷による。


『ツァラトゥストラ』中公文庫、手塚 富雄 訳

昭和四八年六月一〇日初版発行

小早川栞理が見出した、なかなかハードめの翻訳。硬質な日本語に浸りたい向きにはおすすめ。

無理やり決められた愛称は『ツァラ殿』


※作中の引用は第八版による。


栞理幼女バージョン (NEW!)

栞理 兄(NEW!)

ナレーター役の四天王その壱(シルエット)

なんと! ファンアートですって!

先輩方をGoogle+の黒にゃんこ  naduki ari さん が書いてくださいました! ワーイ(∩´∀`)∩☆

表紙ッ!

本作のキャラクターデザインおよびイラスト(の大半)は著者の敬愛する「しんいち」師匠の手によるものです。

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