『見よ、わたしもみずからの知恵に飽きた』

文字数 1,439文字

『ツァラトゥストラの叙説』~冒頭のあらすじ~


 ツァラトゥストラは30歳から40歳までの10年間、山の上の洞窟の中にこもり、孤独を楽しんでいた。

 だが、ついに心が変わる。ある朝、朝焼けの太陽に向かって彼は語りかける。

「君も照らす相手がいなければ幸せではないだろう」と。

「やっぱり、ほんっと偉そうなんですよね、このツァラさん」
「別に太陽にとっては照らす相手がいてもいなくても幸せかどうか関係ないような気もいたしますけど」
「すごい自己中(ジコチュー)っていうかー」
「人間中心主義。当時の哲学も関係しているのではないかな」
「人間っていうより自分中心主義ですよ、ツァラさん……」
「ふふ、この先もなかなか趣きがある」

 見よ、わたしもみずからの知恵に飽きた。

 ~中略~

 贈りたい、分け与えたい。世の知者たちがおのれの無知に、貧者たちがふたたび己の豊かさに、気づいてよろこぶに至るまで。

「つまり、

『太陽も照らす相手がいなければつまらないし日々天体として運行しているだけじゃ飽きるだろう』

と言って、

『自分も自分の知恵に飽きた』

から、

『この知恵を人々に分け与えたい』

と言っているわけだ、それも、まるで太陽の光のように。と」

「知者ってのは知恵のある人ですよね、そんな人が『やっぱり無知でした』って気が付くのは、まだまだ知らないことあるわーってことでしょうか?」


「ここだけだとはっきりしないが、そうなのかもしれない。『まだ学ぶことがあるなんて幸せだ』と思う、ということかな」
「でも、ツァラさん、自分の知恵に飽きて、そう思ったわけですよね……。それで『世の知者たちがおのれの無知』に気づくと良いな、って言ってるってことは……、世の知者より自分のほうがずっと知恵があるぞって言ってるってことですよね……」
「やっぱり、そうとう偉そうですわね……」
「僕の読んでいる手塚訳では太陽を『おまえ』呼ばわりしているぐらいだしな」
「『貧者たちがふたたび己の豊かさに、気づいて…』というところは、やはりイエス様の教えかしら?」
「僕はここがすこしひっかかるんだ。新約聖書には『金持ちが天の国に入るのは難しい。重ねて言うが、金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。』(マタイ19章)と書かれているだろう?

ニーチェは『この人を見よ』でキリスト教をあれだけ批判していたのに、なぜ同じ表現をつかうのだろう」

「そしてこのあと!」
 そのためなら、わたしは低い所へくだっていかねばならない。君も暮れ方になれば海の彼方に沈み、(くら)い下界にも光をもたらしているように。君よ、豪奢なまでに豊かな星よ。

 わたしも、君のようにしなくてはならない。わたしが下っていこうとする人々の言い方を借りれば、没落せねばならない。

(くら)い下界に住んでる人々にあわせて、自分も下って行って、没落せねばならない! ですよ!!」
「下々の者の為にそこまでのことをしてやるのだ私は! ってことですわよね、きっとツァラさんのおっしゃっていることは」
「レベルを合わせてやろう。ってこと、なのかな」
「やっぱり、ほんっとに偉そうですね……」
「ただ、偉そうなだけでなく、ちょっと可愛げ、と言ったらよいかしら、そういう不思議な魅力がありますわ」
「あ、それはあります。

 そうなんですよね、よくわかんないけど、なんか魅力があるんですよね」

「そうだな、そのあたりもおいおい掴んでいくことにしよう」
──こうして、ツァラトゥストラの没落は始まった。
〈つづく〉
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登場人物紹介

敬聖学園図書委員。菅原《すがわら》ひとみ です!

明るく元気な一年生! たまに騒ぎすぎて先生に叱られてます。

うちの学園の図書室ってすごい大きいんです。礼拝堂の裏にある4階建ての建物が丸々「図書館」なんですよ。すごいよね。地下室もあるって噂もあったりして。

小早川栞理《こばやかわ・しおり》と申します。

何やら図書室の主だとか超能力者だとか名探偵の生まれ変わりだとか……。

色々と噂されているようですね。その上、二重人格だとか……。

ーーー

ふん、この切り替えは意図してやっていることだ。他人にどうこういわれる筋合いはないな。


(親しい人の前では男っぽくなります。その理由は本編をどうぞ)

早乙女《さおとめ》れいか です。

自他共に認める栞理の大親友。栞理のいるところれいかあり。

栞理の頭脳と我が家の財力があれば、大抵のことはなんとかなりますのよ。


押忍! ワガハイが新聞部部長、柏野《かしの》ようこである! 


嘘である!

にゃはは。本当は図書委員でーす。壁新聞担当! でも、学園イチの情報通とは私のことよん!

噂話から真実の報道までなんでもリサーチ! 情報はおまかせっ!

『ツァラトゥストラかく語りき』河出文庫、佐々木 中 訳

2015年8月10日初版発行

菅原ひとみが選んだ最もあたらしい翻訳のツァラトゥストラ。

雰囲気的に「さん」付けで、愛称は『ツァラさん』


※作中の引用は2015年8月10日初版による。


『ツァラトゥストラ』(上・下) 光文社古典新訳文庫、丘沢 静也 訳

2010年11月20日初版発行

早乙女れいかのペアブック。現代風に再翻訳された読みやすさに定評のあるツァラトゥストラ。

愛称は『ツァラちゃん』


※作中の引用は2010年11月20日初版第1刷による。


『ツァラトゥストラ』中公文庫、手塚 富雄 訳

昭和四八年六月一〇日初版発行

小早川栞理が見出した、なかなかハードめの翻訳。硬質な日本語に浸りたい向きにはおすすめ。

無理やり決められた愛称は『ツァラ殿』


※作中の引用は第八版による。


栞理幼女バージョン (NEW!)

栞理 兄(NEW!)

ナレーター役の四天王その壱(シルエット)

なんと! ファンアートですって!

先輩方をGoogle+の黒にゃんこ  naduki ari さん が書いてくださいました! ワーイ(∩´∀`)∩☆

表紙ッ!

本作のキャラクターデザインおよびイラスト(の大半)は著者の敬愛する「しんいち」師匠の手によるものです。

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