水に揺蕩うのは魚か霊か

文字数 949文字

 それは、林間学校での出来事でした。林間学校、その目的なんぞは生徒には理解し難い集団での宿泊で、皆が皆、所謂芋ジャーを着て山道を歩いておりました。
 山とはいえ、数日間宿泊する分の荷物を抱えての坂道です。歩けば歩くほどに暑く、ジャージを脱ぐことも許されない。口々に生徒は愚痴っていましたが、それも始めだけ。慣れない山に疲れ、宿泊施設に到着した頃には皆無言になりました。

 到着後は、予め決められた部屋に荷物を置き、昼食です。この昼食も配膳するのは生徒、それも運悪く給食当番だった生徒は給食着持参してまでやらねばなりませんでした。
 カレーを盛り、サラダを盛り、テーブルに並べる。ただでさえ暑いのに給食着を着ての配膳、当番以外が実に憎らしい。

 さてはて、昼食を終えたら林間学校のしおりをもっての集会。狭い会議室に詰め込まれ、学校でも聞いた諸注意を繰り返されました。
 そして漸く、林間学校のメインイベント、カヌー体験が始まったのです。生徒は、簡単な説明を受けた後で救命具を渡され、ジャージの上からそれを装備しました。そして、何故か裸足になって湖畔に立ちました。

 カヌーが浮かぶ湖は綺麗とは言い難く、何匹もの魚の死骸が湖畔に打ち上げられていました。当然、生臭い臭いがしており、誰も彼も我先にとカヌーに乗り込みました。
 カヌーの操作は簡単なものではなく、クラスが一丸にならねばなりませんでした。それでも、林間学校中には慣れてきて、パドルを一斉に上げられるまでになりました。

 そこで、付いてきていたカメラマンの側まで漕いで行き、一斉にパドルを上げたのです。しかし、カメラマンは気付いてはカメラを手に取ったものの直ぐに離し、慌ててクラスのカヌーから離れてしまったのです。
 仕方なく皆はパドルを下ろし、口々に不満を漏らしました。そして、クラスの中でも行動力のある子が、陸に降りた後でカメラマンに詰め寄ったのです。

「気付いていましたよね? なんで仕事しないで逃げたんですか?」
 すると、カメラマンは困った様子で言いました。
「どうせ写らないから。それに、仕事だからこそ、仕事道具を壊したくない」
質問した子は更に詰め寄り、カメラマンは溜め息混じりに言いました。
「あそこに居る霊を映しちゃうと、機材が全てオシャカになるんだよ」
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