愛されぬ者のウタ

文字数 519文字

死なない蛸と言う詩がある。
飢えた蛸は足を食らい、身をも食らいて尚死なぬ。
印象的なこの詩を、人の心に例えてみればどうだろう。
そう、例えば、愛されぬ子が居たとしよう。

愛されぬ子は考える。
 愛して
 抱きしめて
 頭を撫でて
 こっちを見て
 話を聞いて
 一緒に居て
 辛いときは慰めて
 出来るようになったら誉めて

しかし、その願いは何一つ叶わない。そうして、やがて子供は言葉を飲み込む。

 愛して欲しい
 抱きしめて欲しい
 頭を撫でて欲しい
 こっちを見て欲しい
 話を聞いて欲しい
 一緒に居て欲しい
 辛いときは慰めて欲しい
 出来るようになったら誉めて欲しい

様々な願いを飲み込む度に、心の足は短くなる。

 言葉を飲み込むその度に、他の足をも食らい食らい。やがて身動きままらなず。
 それでも尚、死ねなくて。
 その心だけが死に向かい。
 空虚な心、それだけを。
 体は包み生き続け、死ぬことすらも許されず。
 ただ、ぼんやりと虚ろげに。

 他者の顔色窺って、他者の指示にしたがって、自分の意志などありはせず、それで更に傷付いて。

そうして、残った体さえ、食らいつくせば後はなく。
 ただただ虚無がそこにあり。
 ただただ虚しき生き様を。
 ただただ苦しき人生を。

愛されぬ子は歩むのだ。
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