花は咲かぬが土を掘れ

文字数 1,079文字

 ハスキーブームが起き、しかし飼いにくさに飼育放棄される犬が増えた後の話だ。そもそも、ハスキーには沢山の運動が必要だ。なんせ、橇をひいて長距離を走れる犬種、ちょっとした散歩で満足出来る訳がない。

 そんな訳で、庭だけはやたらに広い田舎に育ちきったハスキーがやってきた。親戚の子供が飽きた上に持て余したそうだ。都会に比べ、田舎の犬は放し飼いしても咎められにくい。とは言え、帰巣本能に乏しいハスキーを野放しにすると色々と厄介なので、ワイヤーとリードを組み合わせて庭の中なら好き勝手やれる様にしておいた。

 そして、犬と言う生き物は、土を掘る本能に抗えないらしい。ハスキーは暑さに弱い犬種だけあって、夏は土を掘り返しては涼んでいた。あと、散歩の度に田んぼに水を入れる水路を歩きやがった。

 ブームで無理な繁殖をされ、前の飼い主に見捨てられ、田舎で緩く余生を過ごす筈だったハスキーだったが、長くは生きなかった。

 遺体は焼いて貰って、お経もあげて貰った。墓地は共同だったけど。そして、ひとしきり泣いたある日の夜、花咲じいさん宜しく犬が夢に出てきた。そして、庭掘れワンワンしてきた。自分、じいさんどころか十代だったが。

 ともあれ、庭掘れワンワンされた場所を掘ってみた。骨が出てきた。ラーメン屋で無料配布していた豚骨が。豚骨を掘り出した日にも夢を見、ワンワンされた別の場所を掘る。「ラブラドールが宣伝していた毎日食べたい骨」が出てきた。

 ここ掘れワンワンの夢は続き、その舞台は庭を飛び出して河原になった。だけど、河原を勝手に掘り返す訳にもいかないから放置した。すると、毎日その夢を見る羽目になった。それを学校で友人に漏らした。信じるかは別にして、誰かに話さないとどうにも落ち着かなかった。だけど、話した友人は興味を持って「場所を教えれば掘る」と言ってきた。だから夢に何度も出た河原を教えた。

 そうしたら、またしても骨が出た。それも人間の骨。骨が好きな犬にしたって、幾ら散歩に使う時もあった河原だからって、夢に何度も出てまでワンワン言わなくても良くないか? あと、発見した友人は説明が大変だったらしい。ただ、死亡時期からして犯人にはなり得ないし、なにより子供だからってお咎めはなしだったが。
 犬にも成仏する時期ってあるのかは分からないけど、他のここ掘れワンワンな夢はある時を境に見なくなった。夢に見た場所を掘って、そこから人間の骨がまた出たら嫌だったから正直助かった。だけど、あの夢は一体何が望みだったのだろうか? 何かしらの犬種ブームが来る度に、思い起こしはするが答えは出ない。
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