月の無い夜とお稲荷様

文字数 1,144文字

 ある日、中学の友人が言いました。小学生の時、マラソン大会で同級生が轢かれるのを見たって。それも、その同級生には、轢かれる前にどんよりとした黒い霊が憑いていたって。直ぐに救急車が呼ばれたけど、その同級生は助からなくて。どんよりとした黒い霊は、お葬式の時点で、同級生と仲良しだった子に憑いていたって。そして、その子は自ら命を断って、友達の後を追ったのではないかって結論付けられたって。

 それから、その友人はこうも言ったのです。

「私は狐憑きだからか、仲良くなった相手に何かが起きる。だから、良い人とは仲良くならない様にしている」
 それはつまり、私が良い人では無いと言うことか。しかし、それを聞く前に友人は言ったのです。

「もう霊が嗅ぎ付けたみたいだし、せいぜい頑張ってね」
 コイツ、わざとやったとでも言うのか。そう考えたものの、最早、問い掛ける気力も失せ、その日はそれ以上の会話をせずに帰宅しました。それにしても、狐憑きだからとか言っていたな。狐と言えば、家の北西に祠があったな。行きにくい場所だから、祠に向かうことすらろくにしていないけど。

 だけど、なんとなく、本能的とでも言うのか、コンコン様に、稲荷系の神に縋りたくなった。そうと決まれば油揚げである。稲荷寿司もお供えとして良いそうだが、料理下手が酢飯から作るより、厚めな油揚げを供えた方が良い筈だ。白い陶器製の皿に油揚げをみっしりのせ、通り道に置かれた工具や雑草に気をつけながらコンコン様の祠に向かう。祠に油揚げを捧げた後で祈りを捧げ、雑草を綺麗に抜きながら祠を離れた。

 元友人と会話をしないままに一週間が過ぎ、その間にもちょくちょくお供えをした。お供えの油揚げは、田舎町故に何かしらの野生動物に食べられるらしく、何時も白い陶器製の皿は空になっていた。

 何度かお供えをして、祠に向かう小道も小綺麗になった頃、空には綺麗な満月が浮かんでいました。始めて祠にお供えものを置いた日は月の無い夜だったので、雲のない空に輝く満月は一層綺麗に見えました。

 その翌日のことでした。担任により、クラスの生徒が亡くなったと、朝一番に伝えられたのです。亡くなったのは元友人で、教室を見回すと確かに席は開いていました。元友人の死因までは担任は開かしませんでした。ですが、葬儀などの日程については話し、行くならば迷惑にならない様振る舞うようにも言ってきました。

 中には、声高に葬儀に参列することを宣言する同級生も居ました。しかし、元友人から葬儀で起きた話を聞いた私は、到底参列する気にはなれませんでした。たとえあの話が元友人の創作であったとしても、それはそれで友情が壊れる原因でもありましたし。それに、見ちゃったんですよね、参列を宣言した子に纏わりつく黒い靄を。
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