存在していた子供

文字数 1,140文字

 小さかった頃、引っ越しを経験しました。引っ越し先は結構な田舎で、田畑が延々続くような場所でした。
 慣れない環境に不安もありましたが、それを察する力は両親には有りませんでした。しかし、誰にも構って貰えず一人ぼっちだった幼児に、年の近い子が話し掛けてくれたのです。

「一緒に遊ぼう?」
 寂しくて退屈していた私は、その申し出を直ぐに受け入れました。その子は、秘密の場所、大人の目が届かない場所を色々と教えてくれました。

 その子と遊ぶのは何時も人気の無い場所で、変わりに人の手の入っていない草花が沢山生えていました。

と言うその子は、食べられる実や甘い蜜を吸える花、擦り潰すと染料になる草花も教えてくれました。

 その子とは、草丈の高い場所で待ち合わせ、日が暮れるまで遊び続けました。流石に雨の日は向かいませんでしたが、殆どの日をその子と遊んで過ごしたのです。

 季節が巡り、柔らかな草花が枯れてしまった頃、その子は言いました。
「もう咲いているお花はないし、明日からはもう遊べない」
 話せるだけでも楽しいと縋る私に、その子は付け加えました。
「代わりに、大切なものが埋まっている場所を教えてあげる。でも、掘り返すのは明日ね?」
 その子は、そう言って歩き始め、小さな川の側で立ち止まりました。
「この柳の下。川の方ね」
 そう言って、あの子は木の根本を指差しました。そして、私がしゃがみ込んで根本を見ている内に、あの子は姿を消してしまったのです。

 悲しみと怒りを覚えながらも、私はあの子が示した場所を次の日に掘り返しました。夜半の雨で土は柔らかく、幼児でさえ容易に土を掘り返せました。
 腕がすっぽりと埋まるまで掘った頃、何か堅いものに当たりました。私はそれがあの子の大切なものだろうと、丁寧に土を掘り続けました。

「何をしているんだい?」
 あの子の大切なものを掘り出している最中、釣り竿を持った人が話し掛けてきました。その人は、私が掘った穴を見るなり変な声を上げ何処かに行ってしましました。
 私は、その人が何処へ向かったかも気に留めず、穴掘りを続けました。すると、その人はおまわりさんを連れて戻ってきたのです。おまわりさんも私が掘った穴を見、それから離れる様に言ってきました。

 私は、あの子のことを話しますが、おまわりさん達は困った顔をして、それから言いました。
「この辺りに、その位の子は君しか居ないよ」
 おまわりさんの目配せで、釣り人は私を抱き上げ集会所まで連れて行きました。暫くしてから色々とおまわりさんに話を聞かれましたが、内容までは覚えていません。
 ただ、時間が経った後でも確かなことは、過疎化の進んだ村に子供は少なく、私が掘り返したのは子供の遺骨であったと言うことだけです。
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