似て非なるもの

文字数 772文字

 中学の理科教師は、結構インパクトのある授業をする人でした。例えば、理科室の机にアルコールを撒いて着火し、机は燃えないことを教える様な。

 そんなやり方が常でしたから、理科室にブルーシートに包まれたブタの内臓が有っても驚きは薄かった様に思えます。理科室、いえ理科準備室には人体模型があるものですが、あれはどうにも気味が悪い。なんなら、学校の怪談になる位に気味が悪い。

 人体模型、それは立体でどこにどの臓器があるかを学べる教材。しかし、場所や臓器の形がわかっても、どれも一様に硬く、バラしたら臓器の繋がり方も分かりにくい。そう理科教師も考えたのか、生々しい内臓が理科室に準備されていたのです。

 その内臓は、引き出されてから数日は経ち、とうに体温を感じられない筈でした。しかし、内臓の登場は九月初旬で、体温とはいかないまでも温かく感じられたのです。

 そんな忘れるに忘れられない授業から何年か後、今度は大学でブタを解体する講義を受けました。中学の時は既にバラされ、内臓だけの登場だったブタ。それを安楽○から始めたのです。
 ひんやりとした銀色の台に置かれた内臓は艶めかしく、それまで生きていたそれらは空調の聞いた室内で湯気を発していました。そのどれもが中学で見た内臓とは違って見え、置かれた場所や鮮度が違うからそう感じるのだと思いました。

 それから大学の研究室に所属し、より沢山のブタの臓器を見ることになりました。時には自ら解体し、時には食肉処理場。何回見たかを数えるのも億劫になる程見てきました。
 しかし、その臓器のどれも、中学で見た内臓とは違ったのです。そして、何頭か目のブタを自力で解体した時、不意にある一文が浮かびました。

 ウミガメのスープ。

 あのモツは、本当にブタの臓器だったのか。それを確かめる手段も勇気も、私は一切持ち合わせてはおりません。
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