淀んだ水の底から

文字数 674文字

 夏が過ぎ、プールが使われなくなった秋、教師は言いました。

「収穫したヘチマで、スポンジを作ります」
 そのヘチマは、授業の一環として生徒が育てたもので、既にヘチマ汁や種は収穫済みでした。
「ヘチマスポンジの作り方は簡単です。水に沈めて腐らせ、残った繊維がスポンジとして使えます」
 グリーンカーテンとしても役立つヘチマは、土に還るスポンジもまたエコだと言うのです。

「ただ、ヘチマは結構大きいので使われていないプールに沈めておきますね」
 そうして、収穫されたヘチマというヘチマは、担任の手によってプールへ持ち込まれたのです。それから、担任はヘチマが程良く腐った頃合いで再度プールへ向かったそうです。プールでは、かなりの腐臭が漂い、水はかなり濁っていたと言います。そして、担任がプールサイドからヘチマを入れた篭、それに結び付けた紐を引っ張ろうとした時でした。

 プールの中から白い手が出てきて、水中に引きずりこもうとしたのだそうです。担任はなんとかして手を振り払い、プールから走って逃げたそうです。担任は、直ぐに同僚の教師達に起きたことを話しました。しかし、そうそう信じられる話でもなく、気のせいだと言い聞かせ様としたそうです。

 ところが、一番近くに居た教師は気付いてしまったのです。担任の腕に、小さな手形の痣が幾つも付いていることに。その後、担任はどんどん生気を失い、ついには休職してしまいました。件のプールと言えば、時代の流れもあって新しいものが別の場所に作られました。
 後から聞いた話ですが、古いプールが在った場所は、墓場へ続く霊道が通っていたそうです。
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