猫神様の力を侮った地の末路

文字数 642文字

 多くの人が、子供の頃にハーメルンの逸話を聞いたことがあるだろう。感染症を広めたネズミを追い出した男に民は報酬を出さず、結果的に約束を違えた民が痛い目を見る話だ。外国の昔話だろうって、多くの人は考えるだろう。だけどこの国でも、似た話はあったんだ。それも、近代に。

 この国が、西洋の強国と肩を並べるには、まず資産が必要だった。そして、その資産を得る為に、品質の良い製品を輸出した。その輸出で栄えた地は今でも栄えている。だけど、その輸出する為の品を作っていた地、それがどうなったか知っている人は案外少ない。

 良質の絹布を作るには、先ず良質な生糸が必要だ。そして、良質な生糸を作るには、良質な繭を作ってもらわねばならない。しかし、その繭を作り出す生き物にとってもネズミは害獣で、あの大きさの害獣を駆逐するのこと。それは当時の人間にとって容易なことではなかった。

 そこで、ネズミを容易に捕まえられる猫、その存在は重要で、崇められることもあった。ところが、時代は移ろい、養蚕が廃れた頃、人々が猫を疎ましく扱う地があった。その地では、猫は不当に命を奪われ、ついに一匹も見かけなくなったそうだ。

 そして、猫が居なくなった日の夜、それは起こった。黒い色をしたネズミがその地に集い、蓄えていた食糧を始め、住人の財を奪っていったと言う。特に、猫の命を直接奪った者は、その身の肉までも綺麗さっぱり奪われたと言う。ネズミの襲撃に怯えた者たちはその地を離れ、人の住まなくなった地は獣の住まう地に変わったそうだ。
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