五分の魂も集まれば力を持つ

文字数 845文字

 とある田舎町、街灯もろくにない夜中。薄汚い身なりの男が刃物を持って歩いておりました。その田舎町には駐在所すらなく、自警団を結成して持ち回りで見回りをしておりました。その見回りは頻繁なものではありません。警察と違って、本職は別にあるのですから、時間を捻出するにも限界がありました。

 どんな場所でも心を病んでしまう人は出てきます。それはこの田舎町でも例外ではなく、夜間に刃物を持って歩く男がそれでした。人間社会で負けに負けたその男は心を病み、人間の健康的な生活から外れました。負けた男は、その鬱憤を弱者に向けました。

 始めは近くに来た虫。次に、わざわざ虫を集めては鬱憤を晴らしました。その行為は徐々に激しさを増し、庭に来た鳥や小動物の命を、心を満たすために利用し続けたのです。その内、男は夜間に狩りに出始めました。田舎町ですから、獲物にはことかきません。寝静まった小動物は格好の餌食となり、男は段々と容易さに飽きていきました。

 ある日、男は木の枝で眠る黒猫を見つけます。男は、直ぐに刃物を猫に振りかざしました。猫は逃げもせずに枝に留まり、男が何度か刺した後で地面に落ちました。男は、無抵抗な猫に執拗に刃を振り下ろし、血の臭いが周囲に広がりました。そして、満足した男が立ち上がろうとした時、彼の体は懐中電灯の光で照らされました。

「何をやって」
 その声は悲鳴に変わり、男は声の主が猫に気付いたのだと考えました。そして、どうやってこの場を切り抜けるかも。
「救急車だ! 誰か電話しろ!」
 男は、何故救急車を呼ぶのかが理解出来なかった。しかし、懐中電灯を持つ者の問いが、男に現実を気付かせた。

「誰にやられた?」
 その質問は男の目を見てなされ、男はその体中に刺し傷があることに気付いた。その傷は腹部に集中し、そのどれもが猫に与えた攻撃と一致していた。
 一寸の虫にも五分の魂。一つ一つは小さな命でも、集まれば大きなことをなしえることが出来る。それは、何時でも何処でも起こりうることだと伝えられているのです。
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