本日の論題:婚前交渉
文字数 2,969文字
ディベート部にはカレンダーが設置してあり、そこに各々がやりたいテーマを書き込んでいく。
そして当日までに、誰からも消されなければ論題決定。
ちなみに、空白のほうが多い。
月始めには顧問が来るので沢山書き込まれるものの、日に日に減っていくのがお愛嬌だった。
しかし、わざわざ消す真似はせず、きっちりと予習もしてきていた。
テーマはともかく、肯定か否定に回るかはパートナー共々当日に決まる。
STYは顧問――セクハラティーチャー山本――の略だった。
何をしたかは知らないが、2~3年の女子の間ではそう呼ばれている。
また、このシステムを知っている生徒の悪戯も多い。
酷い下ネタやふざけたテーマだと即刻消されるが、そうでない場合は残ることもしばしば。
ディベート部の活動は録音したものを書き起こして、HP上に掲載している。
中でも面白いと思われたものは、マスメディア部が転載しやがるのでテーマによっては人気があった。
神香原高校は一芸入試枠を設けているからか、奇人変人はもちろんのこと、変わった部活動も多いのだ。
恋々子がお手洗いから戻って来たので活動を開始する。
コイントスでチームと立場を決め――明暗が分かれた。
ふたりは覚悟を決め、否定派の席に付く。
ある意味、肯定派じゃなくて良かったと胸を撫でおろしながら――
そうして、ディベートと言う名の合法的セクハラが始まる。
大きな後ろ盾を失うことに繋がるも、否定派は乗っかった。
否定するのに宗教を持ち出すのはロジカルではないし、説得力にも欠ける。
更に言えば、この話題は絶対にマスメディア部が取り上げるに違いない。下手をすれば、処女厨のレッテルを貼られかねないので男子たちは慎重になっていた。
ディベート中に黙るのはよろしくない(肯定と同意)と教え込まれていた結果、秋人は墓穴を掘る。
誰がどう聞いても、処女厨の発言だった。
誰と組もうとも、恋々子の自爆芸は健在だった。
今回は毛色が違うものの、付け入る隙を与えたことに違いはない。
自己矛盾を起こさない為にも前言を撤回するわけにはいかず――
これなら、宗教的理由を盾にしたほうがマシだったかもしれないと男性陣は考え始めていた。
結局、恋々子と組むとフォローに追われる。
永久莉は否定派が持ち出した社会的問題を利用して、反撃。
永久莉は隣にいる恋々子を冷めた目で見おろし、顎をクイッと前に出して発言を譲る。
本来、ディベートにおいて先輩も後輩も女も男も関係ない。
それでも、男子高校生にとって女の先輩は怖いのだった