本日の論題:ユーチューバー
文字数 3,958文字
私立
とはいえ、部員数はたったの4人。
なので常に2対2の構図かつ、ジャッジをする人もいなかった。
もっとも、主催されている大会には参加する気がないので問題ない。
その為、発言回数や時間などの制限もなく――ゆる~い議論かつ言葉の応酬を楽しむことに重きを置いていた。
どちらの立場で発言するかは、当日にコイントスで決まる。
ペアも同様で、その時になるまでわからなかった。
――ディベートとは、個人の主義や主張を持ち込まない論理的な討論である。
実際、公式ルールでは論題すら開始直前に提示されるスタイルが多い。
ただ、そのような即興劇をやるにはかなりの実力が必要となるので、ここでは事前に決めた論題で言い争う。
今回、肯定派に回ったのは3年生の
恋々子はやる気満々に敵陣営へと目をやるも、国光は不安げな瞳で隣に座る先輩を見ていた。
永久莉は口の端を釣り上げる。
唇が薄いからか酷薄な印象を与え、秋人はぞくぞくしながらも対面に座った相手を見る。
が、視線は交わらない。
国光にとって、最も厄介な敵は味方にいたからだ。
早くも、恋々子は乗せられていた。
台詞を奪われ勢いを無くしたところに、揚げ足を取りやすい発言。
罠とも気づかず、意気揚々と攻める。
国光が手を打つ前に畳み込む。
本心とは違うぶん、秋人は冷静に言葉を操ることができる。また、恋々子を調子に乗らせるだけなので実に容易かった。
一方、国光はそうはいかない。
恋々子は何を言い出すかわからないので、どうしても後手を踏んでしまう。
恋々子は言葉足らずなところが多いので、味方になるとそのフォローに追われてしまう。
しかも、そのフォローに対しても言葉を足してくるので、国光に思考する余裕はなかった。
返しやすい質問は、時に相手を疲弊させる。
国光も反射的に答えてしまい、失敗を自覚していた。
次を考えれば考えるほど、口が動く。
恋々子に喋らせたら駄目だという一心で喋り続けた結果、国光は墓穴を掘る。
討論における自己矛盾は致命的に痛かった。
隙あれば、恋々子は自分の知識を引け散らかす。それも心から楽しそうに――さながら、質の悪い辻斬りである。
相変わらず、敵に回すと愉快で面白いと永久莉は小さく笑う。
もっとも、味方になればこれほど恐ろしい相手はいないだろうが。
恋々子は典型的な注意力散漫型だった。
思いついたら止められず、ころころと転がっていく。
そちらが懸念した通り、規制によって減る視聴者はでてくるでしょう。
でも、確実に増えていく層もいます。
また、自らアクセスしないと目に入らないのでクレームにも繋がりにくい。
国光も言ったけど、ローリスクは大事なのですよ
既に燃え尽きていた恋々子は嘘? と首を傾げる。
国光もしてやられたと、項垂れる。
今まで、無駄な論争に付き合わされただけだった。
ディベートは競技である。
すなわち、相手をいかにして疲弊させるかが勝敗を分けるのだった。