本日の論題:ビキニかワンピースver.ガールズトーク
文字数 3,662文字
ディベート部のグループに届いたメッセージを見て、ふたりは考える。
とはいえ、仮にも先輩。
どうせ永久莉が断るだろうと、後輩たちは率先して既読スルー。
(断りたいけど、予定はない。嘘を吐くか……いや、騙せる相手じゃない)
(逃げたいけど、予定はない。嘘で切り抜くか……いや、誤魔化せる人じゃない)
サボるには恋々子が厄介だった。
恐ろしいことに彼女は教室に乗り込んできて、遊んで構ってと喚き散らす。
しかも羞恥心がないのか、平気で初対面の後輩にも頼るときた。
その結果――
(ぶっちゃけ、おれよりココ先輩のほうがこのクラスに味方が多いんだよな)
(確かに僕はクラスに馴染んでないけど、ココ先輩のほうが親しんでるのは納得がいかない)
これまで嘘でサボろうとした顛末を思い起こして、秋人と国光は諦める。
『じゃぁ、放課後までに各自理論を武装しておくこと』
(ココ先輩がアレ過ぎて目立たないけど、この人もたいがいだよな)
ていうか、ココの場合去年とサイズ変わんないんじゃない?
(いや、もうね。このふたりって、仲が良いんだか悪いんだか)
へー、それで?
私の一番下の妹――小学生に負けてるけど?
学科は違えど、鷹司家の次女――永久莉の妹は同じ学校の1年生であった。
……あの先輩方、少し感情的になってるように思うんですけど?
いえいえ。
私は効果的に煽っているだけで、感情的にはなっていないって
まだ、このふたりに面と向かって言えるほどではなかった。
恋々子は強引に雑談を打ち切り、それぞれが定位置に着く。
そうして、ディベートいう名のガールズトークが始まる。
ワンピのが可愛いのよね。
デザインも豊富だし、目新しいっていうか
わかるぅ!
でも、ワンピースだと太って見えなくない?
まぁ、ね。
けど、ビキニだっていざ着てみると、格好良く決まらなかったりしない?
あぁ、あるある。
胸とお尻のサイズが意外とシビアなんだよね
胸はパッドとかで調整できるけど……。
結局、パレオかスカート型に逃げちゃう
ココの身長でパレオは駄目だって。
それより、超ミニ可愛くない?
可愛いとは思うけど、遠目からだと子供っぽく見えちゃうの。
中学生にナンパされると、超腹立つよ?
秋人と国光は話が通じないと理解する。
いや、正確には理解して貰えないと。
恋々子と違って、永久莉は意図的。
わかっていて、この場を自分の良いように利用している。
以前なら、セクハラされるだけで終わっただろうが秋人は成長していた。
やっぱ視覚映像がないと難しいですね。
写真とかないんですか?
(やっぱ仲悪いのか、ふたり一緒の写真はないんだな)
秋人は二人だけでなく、それぞれの友人たちの水着写真も堪能する。
そんなことはないけどさ。
こうして写真に残るから、同じのはね
(秋人の奴、やるな。気持ち悪がられず、先輩方に水着写真を見せて貰うなんて)
ここで見ないのも不自然なので、国光もご相伴に預かる。
それでいて、
やはり、ワンピースがいいのでは?
秋人さんの視線を見る限り、ビキニだと男にじろじろと見られるリスクが高いようですし
んー、それは写真だからだね。
実際だと、ワンピースのがじろじろ見られる気がする
確かに。
そりゃ見てくる奴はいるけど、ビキニのほうが目のやり場に困るみたい
泳いだり遊んでいる際はいいでしょうが……。
海にせよプールにせよ、今はそうでない時間もかなり多いと思いますが?
あー、それはあるかも。
お店の待ち時間が長い時とか、ビキニのコはそわそわするって言ってた言ってた
写真を拝見した限り、衣服と遜色ない水着もあるようですし。
僕はそういうタイプをお勧めします
あくまで紳士的に。
また、ディベートの枠組みの中で国光は逃げ切った。
こいつよくもやりやがったな――と、秋人はとりあえず噛みつく。
もしかして、透けT水着が秋人の性癖だったりする?
きゃー
……大事なのはギャップです。
普段、見ることが敵わない肌の露出に男はドキッとするんです。
せっかくの水着でビキニを着てこないなんて、男からすればふざけるなですよ!
恋々子が指摘したようなマニアックな趣味はないと。
おれは普通にビキニが好きなだけだと、秋人は力説する。
いいや、違う。
男が求めるのはエロだ。
エロ可愛いか、エロ格好いいか、エロ奇麗か、エロ清楚か、エロ慎ましいか、エロ地味か
しかし、思っていたより引かれてなくて秋人は胸を撫でおろす。
(良かった……。なんだかんだ言って、この人たちって度量は広いよな)
友達次第かな。
私は嫌だけど、ナンパ避けになるのは事実だし。
ココは?
(やっぱ、仲が良いわけじゃないんだ。迷いも躊躇いもなかったぞ)
ディベートみたいに、テーマが決まってるといいんだけど。
そうじゃないと、トワって本当つまんないんだよ?
学校みたいな閉鎖空間ならいいけど。
公共の場でココと一緒なんて、恥ずかしくて憤死ものだって
提案してみれば可能性はあるかもしれないが、秋人の口は頑なに動かなかった。
アイコンタクトを受けた国光も同様。
(このふたりと、衆人環視の前で一緒にはいたくないな)
(たぶん、死ぬほど疲れるだろうから行かないのが賢明だな)
知らない男がいるだけで猫被る人に言われたくないでーす
後輩たちの気持ちなど露知らず、先輩方はまたしても騒々しく煽りあう。
少なくとも、今日のはディベートとは言えない。
こんなのはただのガールズトークであり――
ゆえに、年下の男の子たちにはより難しく、手に負えない代物であった。
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