本日の論題:クリスマスデート

文字数 3,095文字

もーやだ。

なんすか、このテーマは? 

やる気なくします

 事前に知らされていたにもかかわらず、秋人が文句を垂れる。

これはもう、顧問を問いただすしかないっすね。

どの学年のどいつがこんな提案をしたか

無駄だから止めときなさい
それを喋るようじゃ、STYはとっくに顧問を辞めさせられてるって
 ある意味、信頼の籠った発言であった。
でも、先生は知っているわけですよね?
そりゃぁね
くそっ、いいなぁ……
(もし提案者が美人なら、妄想が捗りそうだ)

 やさぐれていながらも、秋人は最低限の冷静さを残していた。

 この手の発言は、男の間だけでしか許されないと。

何がいいんだ?
 もっとも、国光は本当に理解していない様子だった。

はぁ。

おまえはいいよな

おまえ、ここ数日おかしいぞ?
 国光があえて指摘してやると、
クリスマスとか夏休みとか、周りが浮かれているとおかしくなる人ってたまにいるから
 恋々子がさも正しいかのように答えた。

ちょっとココ先輩。

おれをそういう捻くれた人たちと一緒にしないでください

(いや、それは無理がある)
(本当に重症だな)
お薬、出しておきましょうか?
だから、そのノリは止めてくださいってば
 そう言って、

よしっ! 

始めましょう!

 秋人は空元気を出す。
 珍しく、率先してコイントスをし――

よっしゃぁっ!

テンションあがってきたぞ!

 1人だけ、喜びの声をあげる。
あんた、感情的になり過ぎ
秋人、ディベートの根本を忘れてない?
……喜べる要素があるか?
僕とおまえのペアだぞ?
 これまで、嫌がってきた組み合わせである。

そんなの些細な問題だ。

クリスマスデート推奨派で喋るより、よっぽどマシだ!

 本日のテーマはクリスマスデートをするべきか否か。
 チーム分けは秋人の言った通り。

 

 推奨派が恋々子と永久莉。

 反対派が秋人と国光となった。

 そうして、若干1名。
 

ディベートを隠れ蓑にした、魂の叫びを始める。

クリスマスデートなんて、するべきじゃありません。

そんなのは喧嘩の元になるだけです

 案の定、秋人が口火を切った。

何処に行っても人混み!

何を買うにしても行列!

しかも、寒い!

 が、理論の欠片も見当たらない。
……実際、北海道ではカップルでイルミネーションを見に行くと別れるというジンクスがあります
 仕方なく、国光はフォローに回る。
それに限らず、破局スポットと噂される場所には秋人さんが言った要因が多い

人間にはパーソナルスペースがあります。

他人に近寄られると、不快に感じる距離。

人混みが多い場所だと、どうしてもそのパーソナルスペースを侵されるので機嫌が悪くなってしまう

ぶっちゃけ、恋人も他人です。

付き合ったばかりだと、まさにそう

 満面の笑顔だが、悪意に満ちた口調で秋人が付け足す。
また大勢のカップルがいるからこそ、比較が始まります
 このままではマズいと国光は話題を変えるも、
そして、比較は不満の始まり
 すぐさま、秋人が食らいつく。

ああして欲しい、こうして欲しい。

他にも、自分の恋人がブスで不細工などなど

(……こいつ、性根が腐ってる)
(うわぁ、ウチの兄ちゃんみたい)

目の前で高額なモノを頼まれたり、高そうなプレゼントを渡してたり。

一目でわかるブランドを身につけたり――

……少なくとも、クリスマスだからデートをすべきだという発想は危険です

 些か無理やりに終わらせ、

(もう、やだ……)
 国光は発言を譲る。

そちらの言い分は観光スポット。

また、人気のお店に限定されたお話ですね

 永久莉はバッサリと切る。
自宅デートであれば、なんら問題ないと思います

いいえ。

クリスマスに自宅でなんて、マウントを取られます

 負けじと秋人が言い返すも、
でしたら、ホテルでも構いません
 あっさりと撃沈される。
そもそも、クリスマスという特別なイベントにデートをしない理由って、ケチ臭いものばかりじゃないでしょうか?
 更には、恋々子も追い撃ちをかける。
せっかくロマンティックに決められる日なのに、しょうもない現実を並び立てるのは無粋だと思います
(金の無駄、寒い、面倒……確かにそうだな)
 心の内で国光は納得する。
もしくは、ロマンティックに決められない自分に対する言い訳かな?
 恋々子の悪意ある言葉は、明らかに秋人を名指ししていた。
……この手のイベントにおいて、男性はプレッシャーをかけられています

プレゼントの質、デートのプラン。

やれ最悪だの最低だのと、女性たちが笑いながら話しているのを耳にするのですから

 しかし秋人はムキにならず認めてから、
むしろ、女性のほうが現実的な物欲でロマンティックを汚しているかと
 その責任を相手に擦り付ける。
それはガールズトークの場だからでしょう
 が、永久莉が割って入った。

そういった場では自慢話、惚気話は嫌われます。

その為、話している内容が必ずしも真実とは限りません

男性にだって、同性が集まった時にだけされる話題はあると思いますが?
……まぁ
 つい先ほど、異性がいるゆえに言葉を選んだ秋人には何も言い返せなかった。
日本ではストレートに愛情表現をする機会がありませんので、私はクリスマスを始めとしたイベントは大いに利用すべきだと思います

 あくまで個人的な意見として、永久莉は弁舌を終えた。 

 その意図は明らかで――

仰ることはわかります。

しかし昨今において、恋人の在り方や関係性は人それぞれです


 国光は言葉を置きに行く。

また、金銭感覚は恋人の間で重要です。

クリスマスを特別視しすぎると、かえって問題が起こる可能性も否めません

 ……クリスマスデートとなると、男性はどうしたって気負います。

結果、普段ならしないような失敗もするかもしれません

 秋人も先輩の意図を読み取り、今度は冷静に言葉を操る。
つまり、リスク管理の意味でクリスマスデートはすべきではないと思います
そのぶん、プレゼントなどで好意を示せばいいと思います
 そうして、拙いながらもどうにかディベートの体を整えた。

イメージと現実の落差が激しいと、人は冷めてしまいがちです。

そして、女性のほうが確かに男性よりもクリスマスを意識しています

 恋々子とて、先輩の自覚はある。

なので、女性のイメージを壊すくらいなら、クリスマスデートを避けるのは悪くないかもしれません

 とはいえ、彼女にとっての先輩はかなり癖のある人物だった為、
もっとも、それはそれでヘタレの印象はぬぐえませんが
 素直に勝ちを譲りはしなかった。
ここぞという時に決められない男性は正直、魅力に欠けます
 そして、それは永久莉も同様。
また女性は無理をしてでも、自分の為に行動してくれる相手を好むものです
 多少の塩は送るものの、勝利を譲るほど優しくはなかった。

そうそう。

特にクリスマスなどのイベントを大事にしてくれると、とっても嬉しいの

口では無理しなくていいって言うけどね
……そちらはどうも、女性の意見に偏っているように聞こえますが?
そちらが男性の意見に偏っているからでしょうね

……友人の全員が恋人持ちとは限りません。

そんな中、彼氏を優先すると孤立する恐れがあると思います

いつも彼氏優先だとそうかもしれないけど、クリスマスに彼氏を優先しないのは逆にマズいかと

……


(くそっ、反論しやすい言葉は罠だ)

……


(駄目だ、もっと考えろ)

 発言の隙は与えられるものの、即座に潰されて後輩2人は頭をフル回転させる。

 そうして、ある意味いつも通り。

(とりあえず、落ち着けおれ。ここで必要なのは女性の意見であって、おれじゃない)
(恋人がいるのに、クリスマスにデートをしたくない女性の心情……ってなんだ?)

 先輩後輩に分かれてしまうと、どうしても追いつめられてしまうのであった。

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登場人物紹介

染谷 恋々子《 そめや こここ》、愛称ココ

一芸入試組3年生だが、その年齢にあるまじき低身長でちんちくりん

ディベート部ではババ抜きにおけるババ扱い

つまり、引いた相手は嫌がる

味方にすると恐ろしいが、敵に回すと愉快なコ

頭の回転は早いものの、よくよく空回りして明後日の方向に飛んでいく

そういった性質に加え、ふらふらと揺れながら歩くことからコケコッコーの蔑称あり


鷹司 永久莉《たかつかさ とわり 》、愛称トワ

中高一貫付属組のJコース3年生で、ディベート部では最も頼りになる存在

ただ、恋々子のノリに付き合えるだけあって中々の性格をしている

4姉妹の長女で同性の扱いが得意な一方、男性はちょっぴり苦手

もっとも、後輩たちは男のカテゴリーに入っていないのかそんな様子は微塵も窺えない

姉妹揃って発育がいいいらしく、小学生の末妹ですら恋々子を上回っているとか

林原 秋人《 はやしばら あきひと》、A(進学)コース1年生

基本的に真面目で普通の性格

事実、そのスタンスで発言することが多い

ただ、時折り全方位に向けて敵意を向ける悪癖があり

特に恋愛や異性を含む論題になるとその傾向が強くなり、周囲をドン引きさせる

加賀 国光《 かがくにみつ》、SA(特進)コース1年生

入部当初は無口で口下手だったものの、最近は口が軽くなってきている

ただ、時折り迷子になるのか会話の着地点を見失う傾向が強い

本人は陰気でつまらない奴と思い込んでいるものの、女子に告白された経験あり

更にはそれを普通と思える感性な為、恋愛関係の論題になるとナチュラルに秋人を刺激する

ディベート部の顧問

通称、STY

S(セクハラ)T(ティーチャー)Y(山本)

かつては生意気な生徒だった為、破天荒な生徒に対しても寛容である

伊西(いにし)エレナ

一芸入試組3年生、元ディベート部

恋々子曰く、性格が悪いというか性悪

初期から何かと話題にあがるマスメディア部の部長だが、登場は#7より


腐頭 桜《ふとう さくら》

一芸入試組3年生、マスメディア部の副部長

エレナ曰く、恋々子よりも馬鹿で間抜けで煩くて人としてどうかと思う存在

一方、誰もが認める美人で背も高い

登場はエレナと同じく#7より

響《ひびき》先生、31歳独身

藍生先輩曰く、さぞかし簡単な人生を歩んで来られたお人

その評価を裏切らず、教師にあるまじき幼い言動が目立つ

登場は#7より(初出は別作品、結婚すべきかどうかをアラサー女教師が女子高生に相談する)

 

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