昨日、あんだけクリスマスデートをするべきじゃないって立場で弁舌を尽くしたってのに……
本命とのデートは24日と25日のどっちがいいですか?
――って、ふざけんじゃねぇよっ!
本命ってなんだよ?
遊びがいんのか?
それとも義理かスペアかATMか?
24日と25日のどっちが大事か、だろ?
誰も本命とのデートなんて言ってないぞ
それもそのはず――現在、部室内には2人しかいなかったからだ。
もっとも、だからこそ――
はっ! 言葉の裏も読めないのか?
そんなん言われるまでもなく気づけよ
秋人のエンジンは全快であった。
ちなみに、半分くらい冗談である。
ただ、大声を出すのは――それも本音を訴えるのは気持ちいいので、少々調子に乗っていた。
高校生だぞ?
こんなん、恋人か友達の両天秤に決まってんだろ?
あぁ、そうだ!
そして、このテーマを持ち込んだ奴は絶対恋人持ちだ
こんなの贅沢な悩みだぜ?
恋人も友達もいない奴だっているのに……あー腹が立つ
恋々子と永久莉が何やら紙袋を引っ提げて戻ってきた。
先生が言っていた渡したいモノって、なんだったんですか?
機先を制するように、国光が質問する。
先輩たちは顧問に呼ばれて、部室から一時離れていた。
あぁ、なんかお菓子とか色々?
全部クリスマスグッズみたい
可哀そうな林原秋人君に届いた、差し入れでございまする~
なんか、顧問のデスクに沢山届いてたらしいよ。
ディベート部(1年の林原君)への差し入れですって
良かったじゃない、秋人。
たぶん、女子からのプレゼントもあるよ
ちなみに中身のチェックはしてあって、ヤバいモノや嫌がらせの類は省いてるってさ
色々と引っかかるとこはあるが、秋人は悪くない気分であった。
だね。
わたしはやっぱり、平和を乱すほうが好きかもしんない
えーと、僕とココ先輩が24日派で秋人とトワ先輩が25に日派ですね
しかし、口にすると鬱陶しい絡み方をされるのが目に見えていたので取り繕っておく。
効果はあったようで、恋々子は上機嫌に席へとついた。
秋人、頭の調子が悪かったら今の内に締めといてあげるけど?
そうして珍しく、全員の価値観が一致したディベートが始まる。
理由は単純で、イブならそのまま共に当日――クリスマスを迎えることができるから……だそうです
特別な日を誰と過ごすかはもちろんのこと、誰と迎えるかも重要なの
抑揚から判断して、恋々子はすかさずフォローに入る。
似たような例だと、大晦日とお正月があります。
まぁ、こちらはだいたい大晦日を恋人や友人と過ごして、1日は家族ってパターンが多いけど
つまり、日本人は従来の流れに沿っているだけなのかもしれませんね
人は新しいことを始める際、不安から類似性を求めると云われています
単純に当日だと、どうしても終わりが見えてしまいますからね
25日の夜だと、関連商品に半額という現実的な文字がチラつきますし
あー……と、全員が納得を示して沈黙――天使が通り過ぎる。
……思うに、日本人の場合はイブっていう言葉の響きが好きだからって気もしますけどね
それはあるかも。
イブってなんか、可愛い女性の代名詞的なとこあるもん
名前を変えただけで売り上げがあがった例は確かにある
というかもともと、日本には祭りの前日、準備が一番楽しいって価値観はありましたよね
人混みや行列も、充分ロマンティックに水を差す要因だと思いませんか?
話は逸れますが、恋愛も成就するまでが一番楽しいと云われています
大事な瞬間を誰と迎えるか。
そこに重きを置くのはわかりますが、それを至上とするのは違うと思います
ちなみに、クリスマスデートが破局のきっかけになることも多いそうです
きっとそれは共に迎えることばかり重視して、どう過ごすかを考えていなかったからではないでしょうか?
それはプレゼント欲しさにキープしていた方々が、切られた結果だと思いますけど?
他にも、寂しさから適当な相手を見繕うという話もあります。
そして、クリスマスが終わると共に手放すの
恋々子の弁論に加わりたくなかったのか、国光が流れを止める。
クリスマスは本来、家族と共に過ごすモノです。
そして、その考えは僅かではありますが日本にも浸透していると思います
結果、イブを恋人と。
そして、当日を家族と過ごすというパターンも多いかと
仰ることはわかりますが、テーマはどちらが大事かですよ?
どちらを本命とのデートに充てるかではありません
(そこは別にいいでしょ。私らだって、脱線しまくりだったし)
(うわー、秋人のやつ性格悪っ。やっぱ、まだ治ってないのかしら?)
ただ24日を恋人と、25日を家族と過ごす価値観は広く知られているのも確か
全員をドン引きさせているとも知らず、秋人が喋りだす。
ゆえに、24日を共に過ごせば本命の恋人と錯覚させることも可能です
だからこそ、25日の当日が大事なんです。
今回のテーマは、どちらかを選べと言う話ではありませんし
(……なるほど。これを言いたくて僕を利用したのか)
恋人なら24日、25日と連続して過ごすのが当然!
その上で、どちらが大事かと云われれば25日でしょう
もはやクリスマスデートはテンプレートができあがっています。
そして、それは24日に使われやすいので25日の過ごし方こそ、本来のセンスが試されるというわけです
周囲をドン引きさせることで黙らせた隙に、秋人は自分理論を披露し終えた。
それはごくごく少数の、一部の方にしか通用しない理論ですね
それに24日を共に過ごすということは、そのまま25日を共に迎えるということにも繋がります
他は聖なる夜と変換したのか、誰も突っ込まなかった。
24日と25日の両方を共に過ごすのが当然と仰いましたが、それには24日が必要不可欠じゃありませんか?
今更ながら、秋人は自分の発言を後悔する。
着地点を決めて、その出来に満足して調子に乗っていた所為か、過程にある大きな穴を完全に見落としていた。
当然ですが、24日の過ごし方が最悪だと25日はありません
先ほどクリスマスデートが破局に繋がると仰ってましたが、24日の過ごし方によって25日を迎えられないケースもあると理解していますか?
自分で否定したことまで持ち出して、恋々子は責め立てる。
(どうせこの調子だと、ココも自爆するからしばらく喋らせておこう)
誰もが今のままで満足しているからこそ、クリスマスには大きな変革が訪れていないんですよ?
(……さて。ココ先輩が自爆する前に話題の切り返しを考えておこう)
そのまま秋人が追いつめられるのが先か、それとも恋々子が自爆するのが先か――
どちらにせよ、ディベート部の面々はいつもの調子を取り戻したようであった。