本日の論題:イヴ(24日)かクリスマス(25日)か

文字数 3,813文字

くそったれだ!
 相も変わらず、秋人はやさぐれていた。
昨日、あんだけクリスマスデートをするべきじゃないって立場で弁舌を尽くしたってのに……
 テーマは事前に知っていたにもかかわらず、

本命とのデートは24日と25日のどっちがいいですか? 

――って、ふざけんじゃねぇよっ!

 秋人は納得がいかないと吠える。

本命ってなんだよ? 

遊びがいんのか? 

それとも義理かスペアかATMか?

勝手にテーマを捏造すんなよ
 珍しく、国光が突っ込む。

24日と25日のどっちが大事か、だろ? 

誰も本命とのデートなんて言ってないぞ

 それもそのはず――現在、部室内には2人しかいなかったからだ。
 もっとも、だからこそ――

はっ! 言葉の裏も読めないのか? 

そんなん言われるまでもなく気づけよ

 秋人のエンジンは全快であった。

 ちなみに、半分くらい冗談である。

 ただ、大声を出すのは――それも本音を訴えるのは気持ちいいので、少々調子に乗っていた。

高校生だぞ? 

こんなん、恋人か友達の両天秤に決まってんだろ?

別に全員が恋人持ちじゃないだろ?

あぁ、そうだ! 

そして、このテーマを持ち込んだ奴は絶対恋人持ちだ

あー羨ましい
……正直でいいことだ
 付き合っていられず、国光は適当に返す。

こんなの贅沢な悩みだぜ? 

恋人も友達もいない奴だっているのに……あー腹が立つ

(……早く戻って来ないかな、先輩たち)
 国光が心の底から願っていると、
おまたー
お待たせ
 恋々子と永久莉が何やら紙袋を引っ提げて戻ってきた。
先生が言っていた渡したいモノって、なんだったんですか?

 機先を制するように、国光が質問する。

 先輩たちは顧問に呼ばれて、部室から一時離れていた。

あぁ、なんかお菓子とか色々? 

全部クリスマスグッズみたい

 そう言って、永久莉は紙袋を秋人に手渡した。

はい。

お仲間からのクリスマスプレゼント

……はぃ? 

どういう意味っすか?

 秋人が腑に落ちないでいると、
可哀そうな林原秋人君に届いた、差し入れでございまする~
 茶化すように恋々子が説明する。

なんか、顧問のデスクに沢山届いてたらしいよ。

ディベート部(1年の林原君)への差し入れですって

良かったじゃない、秋人。

たぶん、女子からのプレゼントもあるよ

ちなみに中身のチェックはしてあって、ヤバいモノや嫌がらせの類は省いてるってさ
省いているって……あったんすか?

さぁ? 

どうだろ?

とりあえず、お菓子は皆で食べちゃおう♪
まぁ、いいですけど
 色々と引っかかるとこはあるが、秋人は悪くない気分であった。
それじゃ、やりましょうか
 軽くお菓子を楽しんでから、秋人が切り出した。

さてと……。

今日が平和に終わりますように

 永久莉が茶目っ気たっぷりに零して、
えぇ、心の底から同感です
 国光も同意を示す。

だね。

わたしはやっぱり、平和を乱すほうが好きかもしんない

 そして、恋々子が最低な発言をする。
最初から乱れていると、ちょっとねー
(最低)
(最悪)
死ねばいいのに
ひっどーい
それじゃコイントスします
 面倒は御免だと、国光がチームを分ける。
えーと、僕とココ先輩が24日派で秋人とトワ先輩が25に日派ですね
 すると、国光的には嫌な組み合わせ。
頑張りましょう、ココ先輩
 しかし、口にすると鬱陶しい絡み方をされるのが目に見えていたので取り繕っておく。

おっけー。

おーし、やるぞ!

 効果はあったようで、恋々子は上機嫌に席へとついた。
秋人、頭の調子が悪かったら今の内に締めといてあげるけど?
笑顔で怖いことを言わないでくださいよ
 そうして珍しく、全員の価値観が一致したディベートが始まる。

(別にどっちでもいいんだけど)

(どっちでも変わらないよな)

(どうせ両方とも平日だし)

(どっちも大事だよね)
世間一般的には、イブを重要視しているようです
 視線で譲って貰えたので、国光から始める
 理由は単純で、イブならそのまま共に当日――クリスマスを迎えることができるから……だそうです
特別な日を誰と過ごすかはもちろんのこと、誰と迎えるかも重要なの
 抑揚から判断して、恋々子はすかさずフォローに入る。

似たような例だと、大晦日とお正月があります。

まぁ、こちらはだいたい大晦日を恋人や友人と過ごして、1日は家族ってパターンが多いけど

つまり、日本人は従来の流れに沿っているだけなのかもしれませんね
 永久莉が反論ともいえない言葉を挟む。
人は新しいことを始める際、不安から類似性を求めると云われています
単純に当日だと、どうしても終わりが見えてしまいますからね
 秋人も今日は落ち付いて参戦する。
25日の夜だと、関連商品に半額という現実的な文字がチラつきますし
 あー……と、全員が納得を示して沈黙――天使が通り過ぎる。
……思うに、日本人の場合はイブっていう言葉の響きが好きだからって気もしますけどね

それはあるかも。

イブってなんか、可愛い女性の代名詞的なとこあるもん

名前を変えただけで売り上げがあがった例は確かにある
というかもともと、日本には祭りの前日、準備が一番楽しいって価値観はありましたよね

そう、ね。

だからこそ、イブは人気で人が多い

 永久莉はそう認めてから、
逆に言えば、当日が狙い目になる
 現実的な利点をあげた。
それはちょっと、無粋じゃないですか?
人混みや行列も、充分ロマンティックに水を差す要因だと思いませんか?
それに当日を大事にする気持ちは必要だと思います
 永久莉はわかりやすく咳ばらいを挟んで、
話は逸れますが、恋愛も成就するまでが一番楽しいと云われています
 みんなの注意を集めた隙に発言を続ける。
でも、それって褒められた価値観ではないでしょう?

大事な瞬間を誰と迎えるか。

そこに重きを置くのはわかりますが、それを至上とするのは違うと思います

ちなみに、クリスマスデートが破局のきっかけになることも多いそうです
 続くように、秋人も発言する。
きっとそれは共に迎えることばかり重視して、どう過ごすかを考えていなかったからではないでしょうか?
それはプレゼント欲しさにキープしていた方々が、切られた結果だと思いますけど?
 しかし、ぶち壊す恋々子の発言。
たぶん、破局したと思っているのは片方だけかと

他にも、寂しさから適当な相手を見繕うという話もあります。

そして、クリスマスが終わると共に手放すの

……話が逸れていますね
 恋々子の弁論に加わりたくなかったのか、国光が流れを止める。

クリスマスは本来、家族と共に過ごすモノです。

そして、その考えは僅かではありますが日本にも浸透していると思います

結果、イブを恋人と。

そして、当日を家族と過ごすというパターンも多いかと

仰ることはわかりますが、テーマはどちらが大事かですよ?

どちらを本命とのデートに充てるかではありません

 半笑いで秋人が指摘する。
(この……おまえが言うか?)
(そこは別にいいでしょ。私らだって、脱線しまくりだったし)
(うわー、秋人のやつ性格悪っ。やっぱ、まだ治ってないのかしら?)
ただ24日を恋人と、25日を家族と過ごす価値観は広く知られているのも確か
 全員をドン引きさせているとも知らず、秋人が喋りだす。
ゆえに、24日を共に過ごせば本命の恋人と錯覚させることも可能です
(……こいつやっぱ性根が腐ってる)

だからこそ、25日の当日が大事なんです。

今回のテーマは、どちらかを選べと言う話ではありませんし

(……なるほど。これを言いたくて僕を利用したのか)

恋人なら24日、25日と連続して過ごすのが当然!

その上で、どちらが大事かと云われれば25日でしょう

(うっわ、腹立つ!)

もはやクリスマスデートはテンプレートができあがっています。

そして、それは24日に使われやすいので25日の過ごし方こそ、本来のセンスが試されるというわけです

 周囲をドン引きさせることで黙らせた隙に、秋人は自分理論を披露し終えた。
それはごくごく少数の、一部の方にしか通用しない理論ですね
 当たり前だが、早々に指摘される。
それに24日を共に過ごすということは、そのまま25日を共に迎えるということにも繋がります
性なる夜って奴っすか?
 他は聖なる夜と変換したのか、誰も突っ込まなかった。
24日と25日の両方を共に過ごすのが当然と仰いましたが、それには24日が必要不可欠じゃありませんか?
(あっ……しくった)

 今更ながら、秋人は自分の発言を後悔する。

 着地点を決めて、その出来に満足して調子に乗っていた所為か、過程にある大きな穴を完全に見落としていた。 

当然ですが、24日の過ごし方が最悪だと25日はありません
先ほどクリスマスデートが破局に繋がると仰ってましたが、24日の過ごし方によって25日を迎えられないケースもあると理解していますか?
 自分で否定したことまで持ち出して、恋々子は責め立てる。
(ひぃ、トワ先輩ヘルプ!)
 秋人は視線で隣に求めるも、
(自業自得ね)
 永久莉の視線は冷たかった。
それと意味もなく、テンプレートを嫌うのもどうかと
(どうせこの調子だと、ココも自爆するからしばらく喋らせておこう)
誰もが今のままで満足しているからこそ、クリスマスには大きな変革が訪れていないんですよ?
(……さて。ココ先輩が自爆する前に話題の切り返しを考えておこう)
えーと、その……

 そのまま秋人が追いつめられるのが先か、それとも恋々子が自爆するのが先か――


 どちらにせよ、ディベート部の面々はいつもの調子を取り戻したようであった。

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登場人物紹介

染谷 恋々子《 そめや こここ》、愛称ココ

一芸入試組3年生だが、その年齢にあるまじき低身長でちんちくりん

ディベート部ではババ抜きにおけるババ扱い

つまり、引いた相手は嫌がる

味方にすると恐ろしいが、敵に回すと愉快なコ

頭の回転は早いものの、よくよく空回りして明後日の方向に飛んでいく

そういった性質に加え、ふらふらと揺れながら歩くことからコケコッコーの蔑称あり


鷹司 永久莉《たかつかさ とわり 》、愛称トワ

中高一貫付属組のJコース3年生で、ディベート部では最も頼りになる存在

ただ、恋々子のノリに付き合えるだけあって中々の性格をしている

4姉妹の長女で同性の扱いが得意な一方、男性はちょっぴり苦手

もっとも、後輩たちは男のカテゴリーに入っていないのかそんな様子は微塵も窺えない

姉妹揃って発育がいいいらしく、小学生の末妹ですら恋々子を上回っているとか

林原 秋人《 はやしばら あきひと》、A(進学)コース1年生

基本的に真面目で普通の性格

事実、そのスタンスで発言することが多い

ただ、時折り全方位に向けて敵意を向ける悪癖があり

特に恋愛や異性を含む論題になるとその傾向が強くなり、周囲をドン引きさせる

加賀 国光《 かがくにみつ》、SA(特進)コース1年生

入部当初は無口で口下手だったものの、最近は口が軽くなってきている

ただ、時折り迷子になるのか会話の着地点を見失う傾向が強い

本人は陰気でつまらない奴と思い込んでいるものの、女子に告白された経験あり

更にはそれを普通と思える感性な為、恋愛関係の論題になるとナチュラルに秋人を刺激する

ディベート部の顧問

通称、STY

S(セクハラ)T(ティーチャー)Y(山本)

かつては生意気な生徒だった為、破天荒な生徒に対しても寛容である

伊西(いにし)エレナ

一芸入試組3年生、元ディベート部

恋々子曰く、性格が悪いというか性悪

初期から何かと話題にあがるマスメディア部の部長だが、登場は#7より


腐頭 桜《ふとう さくら》

一芸入試組3年生、マスメディア部の副部長

エレナ曰く、恋々子よりも馬鹿で間抜けで煩くて人としてどうかと思う存在

一方、誰もが認める美人で背も高い

登場はエレナと同じく#7より

響《ひびき》先生、31歳独身

藍生先輩曰く、さぞかし簡単な人生を歩んで来られたお人

その評価を裏切らず、教師にあるまじき幼い言動が目立つ

登場は#7より(初出は別作品、結婚すべきかどうかをアラサー女教師が女子高生に相談する)

 

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