本日の論題:バレンタインかホワイトデーcase告白
文字数 3,498文字
バレンタインかホワイトデー……これって、どういう意味?
カレンダーに記されたテーマを見るなり、永久莉が疑問を呈する。
恋々子が勿体ぶった前置きをして、文字を書き加えた。
――case告白。
どう?
意味はわかんないけど、無難そうだから消さなくていっかって思ったでしょ?
でも、残念!
実はそれ、わたしの作戦だったのでーす!
部員たちの沈黙を都合よく解釈して、恋々子は誇らしげにネタ晴らしをする。
片手で恋々子の両頬を押さえ込みながら、永久莉が吐き捨てる。
さすが4姉妹の長女というべきか、慣れた動きであった。
はぁ?
あんた一芸入試の外部入学組でしょ?
中等部と関わることなんてないじゃない
後輩ふたりは勝手に決めつけ、失礼なことを考えていた。
うん。恋愛関係の討論も聞きたいってさ。
でも、ストレートにやるわけにはいかないじゃない?
あの先生、そういう人だったのかと後輩たちは顔を顰める。
それが狙いなの!
後輩たちにSTYがどういう人間かを知って貰う為に、わたしはあえて泥をかぶる真似をしたんだよ!
ディベート部だけあって、言い訳が長い上に巧みだった。
だが、それゆえに永久莉は見抜く。
となると、中等部の依頼も嘘ね。
年下の我儘をチラつかせば、私が流されるって考えた?
で、それが通じない上に私がSTYの名前を出したから、これ幸いにと乗ったわけね
せいかーい。ぱちぱち。というわけで、コイントスするね
(うっそだぁ! この流れでその発言って、頭愉快ってレベルじゃないだろ?)
(……テーマすらディベートで決めるようになったのかな?)
トワと秋人がバレンタイン派、わたしと国光がホワイトデー派ね
えー、楽しそうに討論してたじゃん。
それに、散々な目にあったのはわたしだよぅ!
詳しい説明をしたくないんで、前回の話は終わりにしましょ。
で、このテーマってようは告白は女と男のどちらがするべきかってことですか?
バレンタインに何かを貰ったから、ホワイトデーに返すんだよ?
恋人になるパターンで多いのは、『告白されたから』という単純な理由です
しかし、女性にとってはまだまだハードルが高い行為といえるでしょう。
でもだからこそ、バレンタインというイベントを利用すべきだと思います
男性の草食化が囁かれている現在、待つだけで恋愛ができるのは魅力的な女性に限られてしまいますからね
永久莉と秋人は前もって話し合い、うまく連携をしていた。
それでも、女性としては男性から告白されたいものです。
それにもし、自分から告白して振られた際の傷は計り知れません
そちらの仰ることはわかります。
でも、それはチョコをあげるだけで充分じゃないでしょうか?
だって女性にとっては、それだけでも勇気のいる行為です。
その上、告白まで求めるのは酷なのでは?
もはや、その日にチョコを渡す行為は告白に等しいかと。
それをあえて言葉にするのは、バレンタインのメリットを放棄しているように感じられます
テーマがテーマだけに、誰もが論理を構築しきれていない様子だった。
なるほど。
バレンタインは後押しなどではなく、お互いに傷つかない舞台というわけですね
……はい。
言葉がなくとも告白でき、容易に振れるのはとても素晴らしいかと。
それにきちんとした言葉で告白したいのであれば、クリスマスを利用すべきです
クリスマスに女性から告白、というのはまたハードルが高い……
(だったら、男は何処で頑張んのよ)
男性にとってもそうです。
正直、少年というのは誰かに偉そうに決めつけられると、逆らいたくなるものなんです
男性から告白する、ホワイトデーにお返しをする。
それらは、社会や女性に決めつけられた事柄のように感じます
だからこそ、思春期の男子に期待しても無駄でしょう。
本当に付き合いたいなら、女性から告白するのが1番の手です!
その考えは病気ですね。
お薬、出しておきましょうか?
えーん、だってー
(女として我慢できなかったんだもん!)
(この人、ぜんぜん反省してないな。男兄弟がいるから、罵声にも慣れてるんだろうか? 実際、トワ先輩はかなりビビってるようだし)
秋人も落ち着いて。入部当初でさえ、ここまで感情的になったことないのにいったいどうしたの?
すいません。前回の件もあって、ココ先輩に色々と溜まっていたもので……
永久莉の気遣いを受けて、秋人は我にかえる。怒っている自分がどうしようもない子供に思えて、素直に反省を示す。
今のはココが悪い。
相手の人格を否定する発言は1発アウトよ。ちゃんと謝りなさい
それから、個人の主義・主張を持ち込まない。
テーマがテーマだから、言い分が感情的になるのは仕方ないけどさ
チョコを渡すだけでも、意識して貰えるようになるもん
そして、その1ヶ月間で相手に好意を抱いて貰う経過が、円満な恋人関係を続けるのに不可欠なんじゃないかな?
最初から好きじゃなかった、という理由で別れるパターンは多いんだよ
……それでも、誰かと付き合う経験は得難いモノです。
たとえすぐに別れる羽目になっても、勝算が高い手段を取るべきかと
永久莉が制服を引っ張ってきたので、秋人は嫌々ながらも恋々子に反論――コミュニケーションを取る。
恋愛に不釣り合いな言葉かもしれませんが、打算と行動力は必要でしょう。
ただイベントに煽られるのではなく、それを効率的に利用できる強かさ
それこそ、社会的に自立した女性に求められるモノかと思います
社会的自立が女性の幸せになるとは限りません。
素晴らしきパートナーを得ることも、またひとつの幸せです
いざという時、頼りになる異性を見極める意味でも、焦らずに待つべきじゃないでしょうか?
(……というか、このテーマでなんでこんな怖い話になるんだろうか?)
男性には社会性が求められます。
常識とまでは言いませんが、男性側から告白、ホワイトデーにはお返しする
とはいえ、国光もこの流れに乗る。
どうすれば、ここから恋バナに持っていけるのかは皆目不明であった。
そういったルールに従うのはとても大事です。
男だから、と自分を奮い立たせることができる男性は心身ともに健やかだというデータもありますし
逆に言えば、その考えに疑問を持つ男性は病む危険性が高いのでは?
(これは駄目ね。恋バナをテーマにするのは、今後禁止にしとこうかしら)
(国光の奴、絶対バレンタインに告白されたことあるな)
(やけに攻撃的だけど、秋人の奴バレンタインにチョコも貰ったことないのか?)
(えーん。こんな恋バナがしたかったわけじゃないのにー)
ディベートは中々に難しい。
誰かひとりでも感情的になると、一瞬にしてただの口喧嘩に成り下がってしまう。
ゆえに、相手の人格は絶対に批判してはならないタブーだった。
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