本日の論題:バレンタインかホワイトデーcase告白

文字数 3,498文字

バレンタインかホワイトデー……これって、どういう意味?
 カレンダーに記されたテーマを見るなり、永久莉が疑問を呈する。
ふっふっふ、それはですねー

 恋々子が勿体ぶった前置きをして、文字を書き加えた。


 ――case告白。

は?

なに、変な小細工してくれてんのよ

え?(それじゃ、せっかくの下調べが……)

あん?(それズルくね?)

どう?

意味はわかんないけど、無難そうだから消さなくていっかって思ったでしょ? 

でも、残念! 

実はそれ、わたしの作戦だったのでーす!

 部員たちの沈黙を都合よく解釈して、恋々子は誇らしげにネタ晴らしをする。
恋バナしたいのにいつも誰かがけちゅぅっ……!
友達とやってろ

 片手で恋々子の両頬を押さえ込みながら、永久莉が吐き捨てる。

 さすが4姉妹の長女というべきか、慣れた動きであった。

ふぉっと、まってっ……てばぁ
なに? ふざけたこと抜かしたら吊るすわよ?
(どこから吊るすんだろう?)
(なんのご利益もなさそうだなぁ)
これは、中等部の生徒会からの依頼なのです!

はぁ? 

あんた一芸入試の外部入学組でしょ? 

中等部と関わることなんてないじゃない

わたしの弟がいるからっ
(……ココ先輩は中学受験に失敗したのかな?)
(……ココ先輩、中学受験に失敗したな)
 後輩ふたりは勝手に決めつけ、失礼なことを考えていた。
それで、ほいほい安請け合いしたわけ?

うん。恋愛関係の討論も聞きたいってさ。

でも、ストレートにやるわけにはいかないじゃない?

そうね。STYが食いつくネタだもんね
 あの先生、そういう人だったのかと後輩たちは顔を顰める。
というか、これでも食いつくでしょ?

それが狙いなの! 

後輩たちにSTYがどういう人間かを知って貰う為に、わたしはあえて泥をかぶる真似をしたんだよ!

 ディベート部だけあって、言い訳が長い上に巧みだった。

 だが、それゆえに永久莉は見抜く。

……ココ、それ今考え付いたでしょ?
バレた?

となると、中等部の依頼も嘘ね。

年下の我儘をチラつかせば、私が流されるって考えた? 

で、それが通じない上に私がSTYの名前を出したから、これ幸いにと乗ったわけね

せいかーい。ぱちぱち。というわけで、コイントスするね
(うっそだぁ! この流れでその発言って、頭愉快ってレベルじゃないだろ?)
(……テーマすらディベートで決めるようになったのかな?)
トワと秋人がバレンタイン派、わたしと国光がホワイトデー派ね
仕方ない。前回サボったぶん、今日は見逃してあげる
おれたちは前回も、散々な目にあったんですけど?

えー、楽しそうに討論してたじゃん。

それに、散々な目にあったのはわたしだよぅ!

(あなたはいつもの自爆芸をしただけです)

詳しい説明をしたくないんで、前回の話は終わりにしましょ。

で、このテーマってようは告白は女と男のどちらがするべきかってことですか?

秋人、もしかしてこういうイベントに無縁だった?

は?

(事実だけど、腹立つなぁ!)

バレンタインに何かを貰ったから、ホワイトデーに返すんだよ?
……そのくらい知っています
 つまり、女性のアプローチありきということ。
それを前提にして、攻めるか焦らすかを討論するのよ
また、面倒なテーマを選んでくれたわね

 永久莉の愚痴に男子たちも心から同意する。

そうして、ディベートと言う名の恋バナが始まる。
恋人になるパターンで多いのは、『告白されたから』という単純な理由です
 いつもより覇気のない声で永久莉が口火を切った。

しかし、女性にとってはまだまだハードルが高い行為といえるでしょう。

でもだからこそ、バレンタインというイベントを利用すべきだと思います

男性の草食化が囁かれている現在、待つだけで恋愛ができるのは魅力的な女性に限られてしまいますからね
 永久莉と秋人は前もって話し合い、うまく連携をしていた。

それでも、女性としては男性から告白されたいものです。

それにもし、自分から告白して振られた際の傷は計り知れません

 なんとも、恋々子には似合わない台詞だった。

そちらの仰ることはわかります。

でも、それはチョコをあげるだけで充分じゃないでしょうか? 

だって女性にとっては、それだけでも勇気のいる行為です。

その上、告白まで求めるのは酷なのでは?

もはや、その日にチョコを渡す行為は告白に等しいかと。

それをあえて言葉にするのは、バレンタインのメリットを放棄しているように感じられます

 テーマがテーマだけに、誰もが論理を構築しきれていない様子だった。

なるほど。

バレンタインは後押しなどではなく、お互いに傷つかない舞台というわけですね

……はい。

言葉がなくとも告白でき、容易に振れるのはとても素晴らしいかと。

それにきちんとした言葉で告白したいのであれば、クリスマスを利用すべきです

クリスマスに女性から告白、というのはまたハードルが高い……


(だったら、男は何処で頑張んのよ)

(なんだろう……? トワ先輩が急に怖くなったぞ)

男性にとってもそうです。

正直、少年というのは誰かに偉そうに決めつけられると、逆らいたくなるものなんです

 連携ではなく、秋人の独断であった。

男性から告白する、ホワイトデーにお返しをする。

それらは、社会や女性に決めつけられた事柄のように感じます

だからこそ、思春期の男子に期待しても無駄でしょう。

本当に付き合いたいなら、女性から告白するのが1番の手です!

その考えは病気ですね。

お薬、出しておきましょうか?

――はぁぁぁぁぁっ!
 秋人はキレ、両手で机を叩いて立ち上がった。

ちょっとココ! 今のはないでしょっ!


 秋人の制服を掴みながら、永久莉が非難する。

えーん、だってー

(女として我慢できなかったんだもん!)

(この人、ぜんぜん反省してないな。男兄弟がいるから、罵声にも慣れてるんだろうか? 実際、トワ先輩はかなりビビってるようだし)
秋人も落ち着いて。入部当初でさえ、ここまで感情的になったことないのにいったいどうしたの?
すいません。前回の件もあって、ココ先輩に色々と溜まっていたもので……
 永久莉の気遣いを受けて、秋人は我にかえる。怒っている自分がどうしようもない子供に思えて、素直に反省を示す。

今のはココが悪い。

相手の人格を否定する発言は1発アウトよ。ちゃんと謝りなさい

……ごめんなさい

それから、個人の主義・主張を持ち込まない。

テーマがテーマだから、言い分が感情的になるのは仕方ないけどさ

 気を取り直して、再開する。

チョコを渡すだけでも、意識して貰えるようになるもん

 拗ねた物言いで、恋々子は口にする。

そして、その1ヶ月間で相手に好意を抱いて貰う経過が、円満な恋人関係を続けるのに不可欠なんじゃないかな?

最初から好きじゃなかった、という理由で別れるパターンは多いんだよ

……それでも、誰かと付き合う経験は得難いモノです。

たとえすぐに別れる羽目になっても、勝算が高い手段を取るべきかと

 永久莉が制服を引っ張ってきたので、秋人は嫌々ながらも恋々子に反論――コミュニケーションを取る。

恋愛に不釣り合いな言葉かもしれませんが、打算と行動力は必要でしょう。

ただイベントに煽られるのではなく、それを効率的に利用できる強かさ

それこそ、社会的に自立した女性に求められるモノかと思います

(そんな女性、怖くて嫌ですけどね)

社会的自立が女性の幸せになるとは限りません。

素晴らしきパートナーを得ることも、またひとつの幸せです

いざという時、頼りになる異性を見極める意味でも、焦らずに待つべきじゃないでしょうか?

(……というか、このテーマでなんでこんな怖い話になるんだろうか?)

男性には社会性が求められます。

常識とまでは言いませんが、男性側から告白、ホワイトデーにはお返しする

 とはいえ、国光もこの流れに乗る。

 どうすれば、ここから恋バナに持っていけるのかは皆目不明であった。

そういったルールに従うのはとても大事です。

男だから、と自分を奮い立たせることができる男性は心身ともに健やかだというデータもありますし

逆に言えば、その考えに疑問を持つ男性は病む危険性が高いのでは?
(これは駄目ね。恋バナをテーマにするのは、今後禁止にしとこうかしら)
(国光の奴、絶対バレンタインに告白されたことあるな)
(やけに攻撃的だけど、秋人の奴バレンタインにチョコも貰ったことないのか?)
(えーん。こんな恋バナがしたかったわけじゃないのにー)

 ディベートは中々に難しい。

 誰かひとりでも感情的になると、一瞬にしてただの口喧嘩に成り下がってしまう。
 

 ゆえに、相手の人格は絶対に批判してはならないタブーだった。
 

(えーん、ほんの冗談だったのに。ごめんなさーい)
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登場人物紹介

染谷 恋々子《 そめや こここ》、愛称ココ

一芸入試組3年生だが、その年齢にあるまじき低身長でちんちくりん

ディベート部ではババ抜きにおけるババ扱い

つまり、引いた相手は嫌がる

味方にすると恐ろしいが、敵に回すと愉快なコ

頭の回転は早いものの、よくよく空回りして明後日の方向に飛んでいく

そういった性質に加え、ふらふらと揺れながら歩くことからコケコッコーの蔑称あり


鷹司 永久莉《たかつかさ とわり 》、愛称トワ

中高一貫付属組のJコース3年生で、ディベート部では最も頼りになる存在

ただ、恋々子のノリに付き合えるだけあって中々の性格をしている

4姉妹の長女で同性の扱いが得意な一方、男性はちょっぴり苦手

もっとも、後輩たちは男のカテゴリーに入っていないのかそんな様子は微塵も窺えない

姉妹揃って発育がいいいらしく、小学生の末妹ですら恋々子を上回っているとか

林原 秋人《 はやしばら あきひと》、A(進学)コース1年生

基本的に真面目で普通の性格

事実、そのスタンスで発言することが多い

ただ、時折り全方位に向けて敵意を向ける悪癖があり

特に恋愛や異性を含む論題になるとその傾向が強くなり、周囲をドン引きさせる

加賀 国光《 かがくにみつ》、SA(特進)コース1年生

入部当初は無口で口下手だったものの、最近は口が軽くなってきている

ただ、時折り迷子になるのか会話の着地点を見失う傾向が強い

本人は陰気でつまらない奴と思い込んでいるものの、女子に告白された経験あり

更にはそれを普通と思える感性な為、恋愛関係の論題になるとナチュラルに秋人を刺激する

ディベート部の顧問

通称、STY

S(セクハラ)T(ティーチャー)Y(山本)

かつては生意気な生徒だった為、破天荒な生徒に対しても寛容である

伊西(いにし)エレナ

一芸入試組3年生、元ディベート部

恋々子曰く、性格が悪いというか性悪

初期から何かと話題にあがるマスメディア部の部長だが、登場は#7より


腐頭 桜《ふとう さくら》

一芸入試組3年生、マスメディア部の副部長

エレナ曰く、恋々子よりも馬鹿で間抜けで煩くて人としてどうかと思う存在

一方、誰もが認める美人で背も高い

登場はエレナと同じく#7より

響《ひびき》先生、31歳独身

藍生先輩曰く、さぞかし簡単な人生を歩んで来られたお人

その評価を裏切らず、教師にあるまじき幼い言動が目立つ

登場は#7より(初出は別作品、結婚すべきかどうかをアラサー女教師が女子高生に相談する)

 

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