本日の論題:年上か年下notディベート&恋々子

文字数 4,286文字

 恋々子たちが必死で桜の相手をしている中、永久莉とエレナは憩いの場を探していた。
どうする?
 マスメディア部の部室だと、再び桜に見つかってしまう。
そうだね

 飽きっぽい桜の性格を考慮すると、長くは持たない。

 加え、恋々子もその場のノリと勢いだけで生きているので同調する危険性があった。

 そして、男子たちは言わずもがな。年下の男にあのふたりをどうこうできるはずがない。

あっ、いいとこあった
 そう言って、エレナが案内したのは英国研究会の部室だった。
お邪魔しまーす。

とりあえず2名だから、もてなして

……は?
英国研究会の会長はいきなりの訪問+注文に当然の反応を示す。
いやいやいや、エレナ。

あんたいきなり現われて何ほざいてんの?

場所借りるから、お茶の用意をお願い
人の話を聞けっての!
 しかしエレナは別の部員――後輩に案内を頼んで、ちゃっかりと席に付いていた。
あんた、滅茶苦茶ね
 そう言いつつも、永久莉に止める気配は一切なかった。
大丈夫だよ。

ちょっと弱みを握ってるから

へーなにそれ? 

面白いやつ?

うん、笑えるやつ
言うなよ! エレナ言ったらぶっ殺す!
 聞こえていたのか、会長の砲声。
一応訊いとくけど、あれも一芸入試組?
もち
ほんと喧しいのばっかね
声の大きさは論理に勝るって思ってんじゃない?
何その旧日本的な考え。

ここ仮にも英国研究会でしょう?

こらエレナ!

勝手に決めつけんな!

 紅茶と共に会長がやって来た。
ってかティーバッグ?
イギリスは基本的にティーバッグなんだよ。

日本がイメージしてるお茶会とかは上流階級のもんであって一般的じゃないの

へー、でもそれじゃ他の紅茶系の部と協同活動は無理くない?
うっ……
そういえばイギリスってディベートも盛んだよね?
 エレナの思惑を悟って、
初めまして。

ディベート部部長の鷹司永久莉です

 永久莉は自己紹介を行った。
中高一貫組(Jコース)の3年生だけど、もしかしたら協力できるんじゃない?
……英国研究会会長の桜木(さくらぎ)(ゆずりは)です
 察してか、杠も応えた。
エレナと同じ一芸入試組の3年
知ってる。

じゃぁ、よろしくね杠

いきなり、呼び捨てかよ?
ディベート部(うち)の方針でね
あと一芸入試組の桜は腐った頭のあのコだけで充分よ
あー馬鹿桜
 奇しくも、それで通じ合ったようだ。
ところで、ここの顧問って誰? 

まさかSTYだったりする?

 STYこと山本先生は両手で溢れるほど顧問を兼任していた。

 現にマスメディア部も担当だが、

いや、ウチは(ひびき)先生だよ
げっ? マジ?
苦手なの?
あの人が得意な女子っているわけ?
あー……
まっいないよね。

アレは相当だもん

 エレナがそうくさすなり、喧しい足音が響いてきた。
おっまたせー先生来たよー
 そして扉を開くなり、けたたましい声。
ってやーんお客さん来てたの? 

言ってよ杠ちゃん

先生恥ずかしい
(恥ずかしいって自覚はあったのか)
(先生にも羞恥心って概念はあったんだ)
でも、トワちゃんとエレナちゃんならいっかー
 そうほざくのは響先生、31歳独身であった。
こんにちは。

ちょっと、協同活動の件で伺っていました

そうなんだぁ、頑張ってね
 ディベート部、マスメディア部、英国研究会と関係性は薄いだろうに響先生は微塵も気にしていない様子だった。
あっ、でもちょうどよかったかも。

今度、ディベート部に伺おうって思ってたから

なんでまた?
久しぶりに持ち込み論題したいなーって
以前も言ったと思いますが、そういうのは山本先生を通していただかないと困るんですけど?
えー、でもあの人に知られるのは嫌なんだもん
(いい大人が だもん とか言うな)
(相変わらずだなこの人は)
ちょっと仕事ができるからって口煩いし……
(いや、おまえができなさすぎるだけだろ)
(もっと常識的なことを怒ってるんだと思うなー)
もしかして、先生のこと好きなんじゃないですか?
えー、やっだぁ。

山本先生っていい年して独身だから絶対何かあるって

(いや、おまえもだろ)
(んー、確かに問題はありそうだけど響先生ほどではないかなー?)
 ふたりが内心で毒を吐く中、
でも山本先生ってまだ33とかじゃなかったですっけ?
お似合いの年齢だと思いますよ
 杠は素直な気持ちで響先生にダメージを与えていた。
……え? 

あの人ってまだそんななの?

落ち着いてるから40超えてると思ってた……
はい、山本先生は今年33歳です
響先生は今年31歳でしたよね?
 
 ここまで言われると、響先生もさすがに気付いたようだ。

 先ほどの発言が自虐になっていた事実に。

……ねぇ、結婚するなら年上と年下どっちがいいと思う?
 脈絡もなく、響先生は訊いてきた。
はい?
 そうして、ディベートでもなんでもない一方的な質問――否、ガールズトークが始まる。
両親がお見合いとか勧めてくるんだけど、みんなオジサンなの
(おまえの性格を考慮するとそうなるだろ)
(年下では面倒見切れないかなー)
えーでも年上いいじゃないですか?
でも…後退してるの。

生え際の境界線がぼやけてるの。

それってAGAの兆候なんでしょ?

いや、知りませんってそんなこと
わざわざ調べたんですか?
だって~
そもそも、私たちの年齢に聞いたらたいはんが年上になりますって
実際、30歳を境に変わるらしいですよ
つまり、男も女も年取ると年下が良くなるってこと?
 相変わらず、悪意のない杠が一番効果的なダメージを与えていた。
私ってもう若くないんだ……しょんぼり
まぁ、藍生先輩が言うには同年代と恋愛できなかった人が年上か年下に逃げるらしいんで
世代が離れた異性を好きになる人は性格に難がある可能性が高いそうですよ
何それ? 

だとしたら当たってるじゃん

 エレナを見ながら、杠は発言した。
なぁに?
いや、なんでも……
年上が好きだとして、本人の精神年齢が高いのか。

それとも、我が強くて我儘なだけなのか

 癖になっているのか、ただの雑談にもかかわらず永久莉は理論武装を口にする。
もしくは単に嗜好の問題か。

容姿の影響は思っているよりもずっと大きいですからね

そもそも、男性の場合は本能的に若い女性を求めます。

生物学的なオスとしての本能でしょう

もちろん、その相手が若すぎる場合は別ですけど。

生物学的に語るのであれば、出産を経験しているメスが最もモテるはずですから

うぇーん。

難しくて何を言ってるのかわかんないよぉ

ねぇ、これって私も参加しないといけないわけ?
感情を排して、適当に理屈をつければいいだけだから
まっ、その感情を排するのが中々難しいけどね
 そう挟んで、ふたりは再開する。
一方、女性の場合はリソース――財産の問題があげられるでしょう。

自分とその子供を養ってくれるか否かは重要な案件です

えー、愛はお金じゃないんだよー
ですが、貯金額が一定を超えると明らかな影響がでるそうですよ
そして、不貞行為をするかどうか。

いくら財産があったとしても、それらを他所の女や子供に浪費されたのでは意味がありませんからね

はいはい質問。

世の中のニュースを観ると、それとは逆の男性のほうがモテてると思うけど?

モテるの定義によります。

単純な性行為となると、自己中心的でスリルを求めるタイプに軍配があがるそうですし

そららの要素に加え、見栄を張れること。

重度の嘘吐きとも言えますけど、とにかく女性に魅力的だと思わせられる人がモテるそうです

そもそも、結婚詐欺師は男女とも容姿端麗ではない人が多いです。

見た目が悪いからこそ、内面は良いに決まっている――少なくとも、異性を騙すような真似はしないというバイアスがかかるからでしょう

へーそうなんだ
結局、年上と年下どっちがいいの?
充分な財産があるのであれば、年下が良いでしょう。

女性の年齢における卵子の問題同様、精子の老化も認められていますので

でもでもー、お金がなくても年下の男に貢いでいる女性とかいない?
基本的に女性が男性を選ぶと間違えると云われています。

もっとも、その間違いが楽しいわけですけど

そこまでいきますと別の要因が多いかと。

たとえば学生時代に輝けなかった人は、いつまで経っても当時の劣等感から逃れられないそうですから

周囲がキラキラと輝いている中、勉強やアルバイトに精を出していた人に起こりがちな現象ですね
えっ? なにそれ?
いわゆる夜のお仕事。また、ブランドで身を固めている人。

そういう方々は総じて、その手の傾向が強いと言う話です

自分が羨んでいた存在になりたい、という無意識の行動でしょう。

それをお金の力で成し得る為、辛くとも実入りの良い仕事に就く。

たとえ暴力を振るわれようとも、若くて魅力的な異性に尽くす

あまり容姿が良くないカップルが公共の場でいちゃつくのもそう――

今の自分は他人が羨むモノを沢山持っている、と誇示したいんです


どれも自己肯定感の低さが招く問題です。

自分が信じられないからこそ、誰もが認めるブランドや魅力的な異性を欲する


それなら私は大丈夫かな。

勉強もアルバイトもそんなにしてこなかったし

(……その所為で別の問題が生じている気もするけど)
(本当にさぞかし簡単な人生を歩んできたんだなぁ)
でも、言われてみるとそうね。

学生時代、苦労してたコがそういうところで働いてるって聞いたことあるわ。

あんなにも頑張っていたのにどうしてかな~って疑問だったけど、そういうことなんだ

可哀そう。

卒業旅行さえもお金がかかるからって我慢してたコがそうなるなんて……人生ってままならないのね

(イラッとするな!)
(うん、ムカつくぞ)
(ナチュラルに酷いんだよな、この先生。まぁ、紅茶やケーキの趣味的に上流階級なんだろうけど)
それで結局、女は年上を選ぶほうが正しいの?
現代の社会的観点からすれば、その傾向が強いだけです
当然といえば当然ですが、家族に祝福される結婚が最良なんです
特に女性の場合は母親に認められるかどうか。

もちろん前提として、家族仲が良好の場合ですが

よくよく考えてみると、ママの為に結婚しなきゃって考えてる節はあるかも

最終的には一目ぼれが良いと云われていますが、社会的要因を無視できない現代では難しいですしね
確かにまだ年下の男は対象外かなぁ
それほどまで年齢――社会的に植え付けられたイメージは大きいんです。

おそらく、年齢さえ知らなければ許容できる事柄は多いと思います

逆もまたしかりですが
(この人も若ければ可愛いで許されるんだろうなぁ)
(この年齢でこれは本当に笑えないよ)
(響先生って可愛くて好きだけど、先生としてはまったくもって信頼できないんだよね)
ん? なになに?
 そういった生徒たちの気持ちなど露知らず、響先生は少女みたいに首を傾げるのであった。
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登場人物紹介

染谷 恋々子《 そめや こここ》、愛称ココ

一芸入試組3年生だが、その年齢にあるまじき低身長でちんちくりん

ディベート部ではババ抜きにおけるババ扱い

つまり、引いた相手は嫌がる

味方にすると恐ろしいが、敵に回すと愉快なコ

頭の回転は早いものの、よくよく空回りして明後日の方向に飛んでいく

そういった性質に加え、ふらふらと揺れながら歩くことからコケコッコーの蔑称あり


鷹司 永久莉《たかつかさ とわり 》、愛称トワ

中高一貫付属組のJコース3年生で、ディベート部では最も頼りになる存在

ただ、恋々子のノリに付き合えるだけあって中々の性格をしている

4姉妹の長女で同性の扱いが得意な一方、男性はちょっぴり苦手

もっとも、後輩たちは男のカテゴリーに入っていないのかそんな様子は微塵も窺えない

姉妹揃って発育がいいいらしく、小学生の末妹ですら恋々子を上回っているとか

林原 秋人《 はやしばら あきひと》、A(進学)コース1年生

基本的に真面目で普通の性格

事実、そのスタンスで発言することが多い

ただ、時折り全方位に向けて敵意を向ける悪癖があり

特に恋愛や異性を含む論題になるとその傾向が強くなり、周囲をドン引きさせる

加賀 国光《 かがくにみつ》、SA(特進)コース1年生

入部当初は無口で口下手だったものの、最近は口が軽くなってきている

ただ、時折り迷子になるのか会話の着地点を見失う傾向が強い

本人は陰気でつまらない奴と思い込んでいるものの、女子に告白された経験あり

更にはそれを普通と思える感性な為、恋愛関係の論題になるとナチュラルに秋人を刺激する

ディベート部の顧問

通称、STY

S(セクハラ)T(ティーチャー)Y(山本)

かつては生意気な生徒だった為、破天荒な生徒に対しても寛容である

伊西(いにし)エレナ

一芸入試組3年生、元ディベート部

恋々子曰く、性格が悪いというか性悪

初期から何かと話題にあがるマスメディア部の部長だが、登場は#7より


腐頭 桜《ふとう さくら》

一芸入試組3年生、マスメディア部の副部長

エレナ曰く、恋々子よりも馬鹿で間抜けで煩くて人としてどうかと思う存在

一方、誰もが認める美人で背も高い

登場はエレナと同じく#7より

響《ひびき》先生、31歳独身

藍生先輩曰く、さぞかし簡単な人生を歩んで来られたお人

その評価を裏切らず、教師にあるまじき幼い言動が目立つ

登場は#7より(初出は別作品、結婚すべきかどうかをアラサー女教師が女子高生に相談する)

 

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