乙女ゲーアプリ、エリオン・サーガ

文字数 1,684文字



「やっぱり、勉強をしないのはマズイじゃない。だから、兄貴が私の受験が終わるまでゲームをやってくれたら助かるのよ」



2018/01/22 15:30


「お前のやってるゲームって、乙女ゲーだろうが」



2018/01/24 09:04
蒼太は嫌そうな顔をして眉を寄せた。
2018/01/24 09:13


「最近では、女がギャルゲーをするように男も乙女ゲーをするのよ。それに、エリオン・サーガってストーリーが良いって評価が高いのよ」



2018/01/24 09:14
沙織が目を輝かせて力強く語る。
2018/01/24 09:14


「それ、ネットの感想だろ」



2018/01/24 09:15
蒼太は肩を竦め「いい加減に書いてる奴もいるだろ」と続けた。
2018/01/24 09:16


「兄貴もプレイしてないのに、否定するのは良くないと思うのよね」



2018/01/24 09:16


そう言って、沙織は春風のように爽やかなステップで本棚へと近づく。



辞書の間に挟んでおいた引き継ぎ用のデータをメモした紙を蒼太へ渡す。

2018/01/24 09:17


「限定アイテム忘れずに受け取ること。それから、一日二回のアリーナには必ず参戦してランクを落とさないようにね。一桁キープって大変なのよね」



2018/01/24 09:18

蒼太のバイト先・ドラッグストア

店内に響いているアイドルの新曲が、休憩室まで聞こえてくる。


2018/01/24 09:19


「……男が乙女ゲーする理由って、女の子の可愛さにあるよな」



2018/01/24 09:22


太陽のように眩しく輝く金色の髪。凛々しい蒼氷色の瞳。



天使のように美しい画面の向こうの少女は多くの男性ユーザーを虜にしただろう。



2018/01/24 09:22


「マリー王女かわいい」



2018/01/24 09:23


 蒼太が鼻の下を伸ばして呟く。



2018/01/24 09:24


「おい、新人。仕事サボって遊ぶとはいい度胸だな」



2018/01/24 09:28
皮肉を言うような低い声に
2018/01/24 09:28


「これは、その……」



2018/01/24 09:28


蒼太は恐る恐る振り返る。



そして、声の主が持っている右手の缶コーヒーを見て一息つく。



2018/01/24 09:29


「先輩こそ、サボりじゃないですか」



2018/01/24 09:29
蒼太より二年年上、大学生の田中慎也はコーヒーを一口飲む。
2018/01/24 09:30


「俺は、戦略的休憩だ。まあ、この時間は暇だからな」



2018/01/24 09:30
慎也は蒼太の持っているスマホに視線を向ける。
2018/01/24 09:31


「ゲームはテレビで座ってやるものと語ってたやつがスマホゲームとはな。ついに、携帯ゲームの良さに目覚めたか。まあ、課金はほどほどにしておけよ。気がついたら、バイト代全部つぎ込むことになる」



2018/01/24 09:31
自嘲気味に笑う慎也を見て蒼太は呆れた顔をする。
2018/01/24 09:32
「いや、先輩とは違いますから。それに、これは妹に頼まれて」
2018/01/24 09:32
妹と聞いて、慎也の眉が跳ね上がる。
2018/01/24 09:33


「やっぱ、お前は嫌いだ。一人っ子の俺に、妹自慢ですか」



2018/01/24 09:33


「……どうしてそうなるんですか」



2018/01/24 09:34


蒼太は首を横に振り「自慢してません」と続ける。



そして、小さな溜息をつく。



2018/01/24 09:34


「受験生だってのに、ゲームばっかりして成績を落としてしまったんです。さすがに両親の雷が落ちたみたいで、代わりに俺がやることになって」



2018/01/24 09:35
「お前の家、両親ともに海外だろ?」
2018/01/24 09:35
蒼太はスマホの画面に集中しながら
2018/01/24 09:36


「それが、急に帰って来たんです」



2018/01/24 09:36
まあすぐ帰ったけど、と続ける。
2018/01/24 09:37


「俺が言っても聞かないし、妹にはいい薬です」



2018/01/24 09:37


「エリシオン・サーガな、確かにストーリーは名作だな」



2018/01/24 09:38
慎也は平然とした顔で言ったのを見て
2018/01/24 09:39


「へ、へぇ……」



2018/01/24 09:39
蒼太は休憩所の壁際へ移動して距離をとる。
2018/01/24 09:40
「最近では、乙女ゲーを男がプレイするのも普通だって妹もいってました。でも、知りませんでした。先輩が、そこまで上級者だなんて」
2018/01/24 09:40


そう言って、目を逸らす。





慎也は米神に青筋を浮かべる。



2018/01/24 09:41


「お前、勘違いしてるだろ。だいたい、お前も今やってるじゃねぇか」



2018/01/24 09:42
蒼太は目を逸らしたまま
2018/01/24 09:43


「勘違いなんてしてませんよ?」



2018/01/24 09:43


「……何で、疑問形なんだ」



2018/01/24 09:43


 慎也は頭を掻きながら溜息をつく。



 そして、飲み終え缶をゴミ箱へ投げ捨てる。



2018/01/24 09:44


「お前も、さっさと品出しに戻れよ」



2018/01/24 09:46


踵を返した慎也に



2018/01/24 09:46


「了解です」



2018/01/24 09:47


スマホを操作しながら、蒼太は答える。



次のクエストを終わらせようと、指先の操作を細かく続けた。



しかし、急に画面に靄がかかったように見えにくくなる。



目を擦りながら続けようとしたが、同時に急な眠気が襲ってきた。



2018/01/24 09:47


「……やばい、寝そう」



2018/01/24 09:48
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登場人物紹介

鳴海蒼太(なるみそうた)

高校一年、受験生の妹の代わりに乙女ゲースマホアプリ、エリオン・サーガを進めることになる。

鳴海沙織(なるみさおり)

蒼太の妹。受験生だが、ゲーム三昧。スマホを親に没収される。

田中慎也(たなかしんや)

大学一年。蒼太のアルバイト先の先輩。

マリー


エリオン王国の姫。リオネルに頼んで、異世界ガチャを利用して蒼太をエリオン・サーガの世界に呼び寄せた。

リオネル


マリーに仕える魔女。

セルディック


エリオン国・ベルフェゴール領主。

蒼太がエリオンに召喚されると同時に入れ替わりで飛ばされた。

ジーン


マリー王女の教育係

ディオス


ベルフェゴール家の料理長。不愛想で目つきが悪い。

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