第52話　義脛、都落ちの事１

■文治元年（1185）１１月

　ともかく討手を京へ向かわせよと、頼朝は北条四郎時政(ほうじょうのしろうときまさ)を大将に命じて都へ上らせた。

　後陣は山田四郎朝政(やまだのしろうともまさ)で、一千騎余りを率いて関東を発つと言われていた。

　十一月一日のこと。

　義脛は三位(さんみ)の公卿を通じて後白河法皇に奏上した。

　これに対して朝旨を定めるため、公卿会議が開かれた。

「義脛が申すところも不憫ではあるが、この願い通りに宣旨を下せば頼朝の怒りは深いものとなるであろう。また宣旨を下さなければ、木曽義仲が都で振る舞ったように義脛が振る舞えばまたしても世は乱れるであろう」

　このように各々が申したので、頼朝討伐の宣旨が下された。

　こうして義脛は西国へ下ろうと京を出て行くことになった。

　ちょうど西国の武士たちが数多く京に上っていたが、義脛は緒方(おがた)三郎維義(これより)を呼んだ。

「九州を賜わったので下ることにした。ついてはお主を頼りにしたいのだがどうか」

「菊池次郎がちょうど上洛しておりますれば、きっと呼ばれるおつもりでございましょう。この菊池をお討ちいただければ、喜んで命に従います」

　義脛は弁慶と伊勢三郎を呼んで相談をした。

「菊池と緒方、どちらが頼りになるか」

「それぞれ良いところがございますが、菊池の方が頼りになりましょうか。けれども武の勢いにおいては、緒方の方が勝っているかと」

　義脛は「菊池に頼もう」と申し、今度は菊池を呼んだ。

「仰せに従いたいと思いますが、息子を関東に遣わしております。父子が別れて双方にお味方することになるのはいかがでございましょうか」

　義脛は「ならば討て」と申した。

　武蔵坊弁慶と伊勢三郎を大将として、菊池の宿所へ兵を差し向けると、菊池は矢種をすべて射尽くして戦い、最後は家に火をかけて自害した。

　こうして緒方三郎が義脛の味方に付いた。

　義脛は叔父である備前守（源行家）とともに、十一月三日に都を出発した。

「この義脛の初めての国入りなのだから盛大にせよ」

　そのため上品な出で立ちであった。

　その頃、磯禅師(いそのぜんじ)の娘で静御前という白拍子を義脛は寵愛しており、彼女に狩装束を着せて連れていた。

　義脛は黒き馬で太くたくましく、たてがみも見事な大黒に、白覆輪の鞍を置いて乗っている。

　赤地の錦の直垂に、新調した鎧はつけずに小具足だけを付けていた。

　背格好も似ており、緋縅の鎧を着た喜三太はまるで義脛のような凛々しい武者姿であった。

　家来たちは黒糸威の鎧を着て、黒い馬に白覆輪の鞍を置いて乗った者が五十騎。萌黄威の鎧に鹿毛の馬に乗った者が五十騎と馬の毛色を色分けし、その後ろはさまざまな色の馬が百騎、二百騎が続いていた。総勢は一万五千騎余りであった。