第115話 神託

文字数 2,970文字

 翌日、俺は一人で女神ゼクシーとの、約束通り大聖堂にやってきた。
 大聖堂に入るとそこにはシスターを含め、教会関係だと思われる人がたくさん(ひし)めいていた。

 なんだなんだ、この人の集まりは?

 そんなことを思う間もなく少し高い台の上に乗った、白い服を着たやや小太りの50代の男性が俺を指さして言う。

「『愛し子』様のお越しです。みなさま道を開けてください!」

『愛し子』??

 俺は左右を見て、後ろを見たが、指を指している方向には俺しかいなかった。

 そしてシスター達に促されるまま俺は女神像の前に進んだ。

「エリアス様でいらっしゃいますか?」
 白い服を着た男の人が俺に聞いてきた。

「はい、そうですが。あなたは?」
 俺が返事をするなりその場にいる全員がひれ伏した。

 白い服を着た男の人が更に言う、
「私はこのシャルエル教の大司教ヨハネスと申します 」

「はぁ?」

「昨晩、女神ゼクシー様の神託が300年ぶりに降りました。女神ゼクシー様の『愛し子』が現れると。そして教会は全てを捧げ力になるようにと」

 私に任せて、とはこのことだったんだ。
 逆になにか面倒なことになっていないか?

「みなさん、立ちあがってください…「「あっ、

です。腕時計を授けて頂いたのは!」」(※第7話 教会と腕時計、参照)
 40代くらいのシスターが俺を指さし、大きな声で俺の話を遮る。

「おぉ、ではあの腕時計は神授だったのですね。神授を授かり神託を受けることが出来るとは、この瞬間に立ち会えた私達は果報者です!」
※神授=神から授かること

〈〈〈〈〈 ハハッ!! 〉〉〉〉〉

 全員が今までよりも更に低く(こうべ)を垂れた。

「俺はそんなことは望んでいません。もう立ち上がってください!」

 そう言ったが立ち上がっては貰えそうにない。
 するといつの間にか白い靄のようなものに包まれた場所にいた。

「やっほ~!」
 残念メガネ女子、女神ゼクシーが現れた。

「かあさん、これはやりすぎですよ。神託だなんて」

「え~、でもいい手だと思ったのに。可愛い息子が困っている時に助けるのが親でしょう?過保護に育てて子供が親離れできなくて、社会に適応出来なくても、普通は親は子供より先に逝くから分からないのよ。親が子供を可愛がるのは親の自己満足だから。結局、子供のためになんて、ならないんだから」

 何、言っているのかな~?

「かあさん。今度は貴族ではなく教会に取り込まれ、祭り上げられてしまいますよ」

「大丈夫、また神託を告げるわ。国や教会が貴方に干渉できない様に。ちょっと待っててね」

〈〈〈〈〈 神託を授ける!エリアス・ドラード・セルベルトは我が可愛い息子である。何人と言えども干渉、束縛することかなわず。勝手御免とする!これを破りしものには神罰が下るであろう! 〉〉〉〉〉

「さ、これで良いわ。ここにいる人達全員と、この国のシャルエル教団の巫女全員に神託を授けたわ。これで王族や高位の貴族にあなたのことが知れ渡るわ。だから手を出そうとする貴族もいないわ。またお菓子の差し入れ待ってるわね!バイバ~イ!」

 そう言われ俺は現世にいつの間にか引き戻されていた。
 よく考えたら俺のことを知らない、高位の貴族にも知れ渡ったということだよね?
 良かったのかな?
 ポンコツなの、かあさん?


 目を開けるとみんな(こうべ)を垂れうつむいている。
 よく見ると感動で微かに震えている人も居る。
 それはそうだろう、神託なんて普通は授からないから。


「大司教ヨハネス様」
「はい、『愛し子』様」
「エリアスで結構です。今後のことについてお話をしたいのですが」
「分かりました。こちらへどうぞ」

 それから寄宿舎の様なところに案内され、今後のことについて話した。

「ではまず孤児は今、何人いますか」
「はい、赤子を入れば12人です」
「その内12歳以上の子供は何人ですか?」
「6人います」

「孤児院は15歳までしか居られないと聞きました」
「はい、その通りです」
「ではその後はどうなるのでしょうか」
「教会の信徒さんの伝手を頼り、商店やお店に雇って頂いております」
「ではここを出てから先の目途は、大概の人は付くのでしょうか?」
「いいえ、その為に読書きなどを教えておりますが、必ず雇用先が見つかる訳ではありません。なぜなら元々、雇用先が少ないからです」

 やはり、そうか。
 結局、孤児院を出ても就職先はなく、冒険者や犯罪者に落ち朽ち果てていくのか。

 俺は今後のことを考え調味料やシャンプー、ボディソープを作ろうと思っていた。
 しかし問題になるのが人を雇うと、作り方や秘密にしないといけない部分だ。

 そこで目を付けたのが『孤児』だ。
 親に捨てられた子供たちを雇い、仕事をしてもらう。
 孤児院は15歳までしか居られない。
 しかし雇ってくれる当てはない。
 それを我が商会で雇うことで今いる子供達も、就職先の目途がたち将来の不安もなくなるだろう。
 俺はそのことを大司教ヨハネス様に話した。

「エリアス商会の商品を作ってもらいます。特に孤児達にやってもらいたい調味料やシャンプー、ボディソープは作り方を開示しておりません」
「そうなのですか?そんな名誉なことを子供達に」
「えぇ、教会の子供達だから、やってもらいたいのです」
 孤児達は後が無い、だから必死になってやってくれてるだろう。

「そ、それほどまでに愛し子様は、アレン領のシャルエル教徒を必要として頂けるのですか」
 大司教ヨハネス様は、何か違うところにスイッチが入り感動している。
 

「ではその12歳以上の6人にやってもらいましょう。そして勤務評価が良い子には、孤児院を出る15歳過ぎたら私が雇いましょう」
「雇って頂けるのですか。子供達もそれは喜ぶでしょう」
「子供達に会いたいのですが可能でしょうか」
「もちろんです、お待ちください」

 そう言うと大司教ヨハネス様は席を立ち、子供達を連れてきた。

「お待たせいたしました。この者たちになります」
 そう言うと大司教ヨハネス様は子供達を紹介しはじめた。



 男の子4人に女の子2人だった。
 ランド14歳 男
 ルチオ 13歳 男
 カナン13歳 男
 トニーノ12歳 男
 カロリーナ12歳 女
 イヴォンヌ 13歳 女

「君達にやってもらうのは、調味料やシャンプーという化粧品を作る仕事です」

 年長のランドが口を開いた。
「15歳過ぎたら、雇ってもらえると聞いたけど…」
「それは勤務態度次第かな」

〈〈〈〈〈 それなら頑張るよ。俺達 〉〉〉〉〉

「ただし製造方法は秘密厳守だ。漏らした時点でこの話は白紙になる」

「そ、そんなことはさせません、エリアス様」
 おいおい、貴方がやるわけではないでしょう大司教ヨハネス様。
「もし、そんなことをしたら、分かっているな。お前達…」
 ギラリ!!
「 はい!! 」
 子供達は元気に答える。
 ヨハネス様の目がとても怖かった…。



「では明日から俺の屋敷に来て働いてもらえますか。9時くらいで構いませんから」
 俺はそう言うと屋敷の場所を子供達に教えた。

「 頑張って作るぞ!! 」

 成人前の子供を雇うところはあまりない。
 子供達は意気込みが凄い。
 他の子供達やお世話になった教会のために、そんな気持ちもあるのだろう。

 まあ、たくさん作って余ったら、ストレージに入れて置けば良いしね。
 これでエリアス商会の地盤は作れた。
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登場人物紹介

★主人公


・エリアス・ドラード・セルベルト


 男 15歳


 黒髪に黒い瞳 身長173cmくらい。


 35歳でこの世を去り、異世界の女神により転移を誘われる。

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