第97話 年増の基準
文字数 2,902文字
俺達は夕食を食べに『なごみ亭』にやって来た。
早い時間なのでそれほど店は混んでいなかった。
「いらっしゃ~い」
『なごみ亭』の看板娘アンナちゃんが笑顔で迎えてくれる。
「三人前頼むよ」
「まいどあり~。お父さん、エリアスお兄ちゃん達三人前だよ」
「はいよ、それから話があるからと伝えてくれ」
「うん、わかった!」
しばらくするとビルさんがやってきた。
「いや~エリアス君、悪かったね」
「いいですよ、なんでしょうか?」
「実はソース、醤油、マヨネーズを売ってほしい、というお客が多くてさ」
「そうですか、商業ギルドに卸せるのか聞いてみます」
「それから醤油タレだな。作り方は特許を取っているから、お金を払って開示はしてもらっている。でも作るのが面倒でな。タレとして作ったものを、売ってもらえないかな?」
「いいですよ、分かりました。それも卸しますから」
「それは助かるよ。それからカレーの材料だが、他の食堂から文句が来てな」
「文句?どんなことですか?」
「『なごみ亭』だけカレーの材料を卸すのは、ズルいと言われてな」
「そんなことを言われてもね」
「だから困っているのさ」
「提供できる量が限られますから。何件くらいのお店から言ってきてるのですか?」
「今のところ、俺の店の周りにある6軒の店からだな」
「カレーの匂いは周りまで漂いますからね。分かりました、考えてみます」
俺はその足で商業ギルドに向った。
商業ギルドは早朝と夕方が忙しいので、夕方のこの時間でもまだ開いている。
「こんばんは!ノエルさん」
「いらっしゃいませ、エリアス様」
「特許を申請にきました」
「ではこちらの用紙に記入をお願いします」
「分かりました」
今回はカステラとつぶあん、どら焼きの特許だ。
「これは難しいお菓子ですね。卵も貴重なのにハチミツだなんて」
「えぇ、その作り方を応用してもらえばと思います」
「そうですね。このつぶあんの方なら、できそうですね」
「カステラのハチミツ無しに、つぶあんを挟めばどら焼きと言うお菓子です」
「エリアス様は、本当になんでもご存じなのですね」
「いや~、それほどでも。つぶあんは小麦粉で包んで焼いたり、パンに載せて食べるのも美味しいですよ。それから調味料を卸したいのですが」
「調味料ですか?」
「えぇ、それについてアレックさんのご相談があるのですが」
「ギルマスに相談ですか。お待ちください、聞いてまいります」
「どうぞ、お会いになるそうです」
そう言われ俺達はギルマス、アレックさんの部屋に通された。
「やあ、エリアス君。私に相談とはなにかな?」
俺とアリッサさん、オルガさんは向かいのソファに腰かける。
「実は…」
俺はソース、醤油、醤油タレ、マヨネーズの話をした。
「ほう、それは『なごみ亭』ですでに試しているなんて凄いな。引き合いがすでにあるなら、こちらで取り扱おう」
「ありがとうございます。それからカレーの材料のことですが…」
俺はカレー材料の件で、『なごみ亭』が周りの店から言われていることを話した。
「そうなるだろうな。エリアス君、自分で店を持つのが一番の解決法だよ」
「自分で店をですか」
「そうすれば、自分の采配でなんとでもなるからね」
「でも自分でやるのも大変ですし、任せられる従業員もおりません」
「それなら奴隷を買うのが良いだろう」
「奴隷ですか?」
「奴隷は契約魔法に縛られる。主人に不利益になることは言わないからな」
「そうですか」
「必要なら俺が奴隷商へ紹介状を書いてやるぞ」
なんでも奴隷を不当に扱う人もいるので、身元保証人が必要になるらしい。
オルガさんやアリッサさんを見ると首を縦に振る。
「見に行くだけでも、いいんじゃないかな」
「そうね、書いて頂きましょうよ」
オルガさんが言えば、アリッサさんもそう言う。
俺達はアイザックさんに紹介状を書いて貰うまでの間、ロビーで待っていた。
あぁ、そうだ。
俺はノエルさんの受付に向った。
他にも受付は5つあり、人が並んでいる。
でもいつもノエルさんのところだけ、空いているけどどうしてだ?
他の受付は15~17歳くらいの若い女性が多い。
そして並んでいる人は男性ばかり。
「それは私が年増だからです…」
そう言えばカステラはまだ1つストレージにあったな。
「ノエルさん、カステラです。どうぞ!!」
「え?!こ、これがハチミツを使ったカステラと言うお菓子ですか?!」
「「「 ハチミツだって?! 」」」
見ると他の受付や並んでいた商人達が、驚いた顔をしてこちらを見ている。
ハチミツの様な高級品のお菓子を…。
あの受付に…。
あの女性のどこが良いのだ?
あの少年は、おかしいのか?
見るノエルさんが下を向いている。
どうしたのかな?
エリアスは知らなかった。
この世界では15歳で成人となり、女性は18歳で未婚は珍しい。
20歳過ぎたら絶望的、25歳過ぎたら…。
しかし転移してきたエリアスからすれば、20歳はまだまだこれからだった。
あんな年増が良いのか、あの青年は…。
そんな囁き声が聞こえる。
??
ノエルさんはまだ20歳くらいで若い。
女性は歳を重ね酸いも甘いも噛み分ける、年齢の方が魅力的だと思うけど。
「そう言って頂けるのはエリアス様くらいです」
きっと悪趣味なんだよ。
あぁ、連れている女の方も獣人が居るしな。
またそんな声が聞こえる。
すると顔を上げたノエルさんは、とても悲しそうな顔をしていた。
俺は驚いた。
なぜだ?
「気になさらないでください、エリアス様。いつものことですから」
いつものこと?
良くは分からないが、職場でいじめを受ける事が日常だと言うのか?
オルガさんのことを獣人と、蔑 むのも聞き捨てならないが…。
ここには、コンプライアンスがないのか?
それは絶対に許されないことだ。
「エリアス君、抑えてね」
アリッサさんの声が聞こえる。
「仕方がないのです。私は器量が悪くこの歳まで独り者ですから」
ノエルさんは、けして器量は悪くないと思う。
二十年くらいしかまだ生きていないのに、なにを悲観的になるんだ?
藍色の長い髪は、とても綺麗だ。
そして女性は二十歳を過ぎた頃から、体に丸みが出てきてムフフなのだ…。
「では、好みなのだな?」
はい?なんでしょうか、オルガさん。
「エリアス、さっきから全部、口に出ているぞ」
え~、そんな…。
「後は私達で話を付けるから」
えっ~?
なんの話?
アリッサさんとオルガさんが、受付の前に出て俺は後ろに下がった。
そして2人はノエルさんと話はじめた。
するとノエルさんはさっきまでの、暗い顔とは違い嬉しそうな顔をした。
この一瞬で、良いことがあったのかな?
そして小さい声で何やら聞こえる。
いつから来れるの?
夜は体力ある方?
ローテーションだけど大丈夫?
そんな声が聞こえる。
いったい何の話をしているんだ。
いつから来れるの?て。
夜は体力が必要でローテーション??
夜勤のバイトの話?
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読んで頂いてありがとうございます。
物語はまったり、のんびりと進みます。
早い時間なのでそれほど店は混んでいなかった。
「いらっしゃ~い」
『なごみ亭』の看板娘アンナちゃんが笑顔で迎えてくれる。
「三人前頼むよ」
「まいどあり~。お父さん、エリアスお兄ちゃん達三人前だよ」
「はいよ、それから話があるからと伝えてくれ」
「うん、わかった!」
しばらくするとビルさんがやってきた。
「いや~エリアス君、悪かったね」
「いいですよ、なんでしょうか?」
「実はソース、醤油、マヨネーズを売ってほしい、というお客が多くてさ」
「そうですか、商業ギルドに卸せるのか聞いてみます」
「それから醤油タレだな。作り方は特許を取っているから、お金を払って開示はしてもらっている。でも作るのが面倒でな。タレとして作ったものを、売ってもらえないかな?」
「いいですよ、分かりました。それも卸しますから」
「それは助かるよ。それからカレーの材料だが、他の食堂から文句が来てな」
「文句?どんなことですか?」
「『なごみ亭』だけカレーの材料を卸すのは、ズルいと言われてな」
「そんなことを言われてもね」
「だから困っているのさ」
「提供できる量が限られますから。何件くらいのお店から言ってきてるのですか?」
「今のところ、俺の店の周りにある6軒の店からだな」
「カレーの匂いは周りまで漂いますからね。分かりました、考えてみます」
俺はその足で商業ギルドに向った。
商業ギルドは早朝と夕方が忙しいので、夕方のこの時間でもまだ開いている。
「こんばんは!ノエルさん」
「いらっしゃいませ、エリアス様」
「特許を申請にきました」
「ではこちらの用紙に記入をお願いします」
「分かりました」
今回はカステラとつぶあん、どら焼きの特許だ。
「これは難しいお菓子ですね。卵も貴重なのにハチミツだなんて」
「えぇ、その作り方を応用してもらえばと思います」
「そうですね。このつぶあんの方なら、できそうですね」
「カステラのハチミツ無しに、つぶあんを挟めばどら焼きと言うお菓子です」
「エリアス様は、本当になんでもご存じなのですね」
「いや~、それほどでも。つぶあんは小麦粉で包んで焼いたり、パンに載せて食べるのも美味しいですよ。それから調味料を卸したいのですが」
「調味料ですか?」
「えぇ、それについてアレックさんのご相談があるのですが」
「ギルマスに相談ですか。お待ちください、聞いてまいります」
「どうぞ、お会いになるそうです」
そう言われ俺達はギルマス、アレックさんの部屋に通された。
「やあ、エリアス君。私に相談とはなにかな?」
俺とアリッサさん、オルガさんは向かいのソファに腰かける。
「実は…」
俺はソース、醤油、醤油タレ、マヨネーズの話をした。
「ほう、それは『なごみ亭』ですでに試しているなんて凄いな。引き合いがすでにあるなら、こちらで取り扱おう」
「ありがとうございます。それからカレーの材料のことですが…」
俺はカレー材料の件で、『なごみ亭』が周りの店から言われていることを話した。
「そうなるだろうな。エリアス君、自分で店を持つのが一番の解決法だよ」
「自分で店をですか」
「そうすれば、自分の采配でなんとでもなるからね」
「でも自分でやるのも大変ですし、任せられる従業員もおりません」
「それなら奴隷を買うのが良いだろう」
「奴隷ですか?」
「奴隷は契約魔法に縛られる。主人に不利益になることは言わないからな」
「そうですか」
「必要なら俺が奴隷商へ紹介状を書いてやるぞ」
なんでも奴隷を不当に扱う人もいるので、身元保証人が必要になるらしい。
オルガさんやアリッサさんを見ると首を縦に振る。
「見に行くだけでも、いいんじゃないかな」
「そうね、書いて頂きましょうよ」
オルガさんが言えば、アリッサさんもそう言う。
俺達はアイザックさんに紹介状を書いて貰うまでの間、ロビーで待っていた。
あぁ、そうだ。
俺はノエルさんの受付に向った。
他にも受付は5つあり、人が並んでいる。
でもいつもノエルさんのところだけ、空いているけどどうしてだ?
他の受付は15~17歳くらいの若い女性が多い。
そして並んでいる人は男性ばかり。
「それは私が年増だからです…」
そう言えばカステラはまだ1つストレージにあったな。
「ノエルさん、カステラです。どうぞ!!」
「え?!こ、これがハチミツを使ったカステラと言うお菓子ですか?!」
「「「 ハチミツだって?! 」」」
見ると他の受付や並んでいた商人達が、驚いた顔をしてこちらを見ている。
ハチミツの様な高級品のお菓子を…。
あの受付に…。
あの女性のどこが良いのだ?
あの少年は、おかしいのか?
見るノエルさんが下を向いている。
どうしたのかな?
エリアスは知らなかった。
この世界では15歳で成人となり、女性は18歳で未婚は珍しい。
20歳過ぎたら絶望的、25歳過ぎたら…。
しかし転移してきたエリアスからすれば、20歳はまだまだこれからだった。
あんな年増が良いのか、あの青年は…。
そんな囁き声が聞こえる。
??
ノエルさんはまだ20歳くらいで若い。
女性は歳を重ね酸いも甘いも噛み分ける、年齢の方が魅力的だと思うけど。
「そう言って頂けるのはエリアス様くらいです」
きっと悪趣味なんだよ。
あぁ、連れている女の方も獣人が居るしな。
またそんな声が聞こえる。
すると顔を上げたノエルさんは、とても悲しそうな顔をしていた。
俺は驚いた。
なぜだ?
「気になさらないでください、エリアス様。いつものことですから」
いつものこと?
良くは分からないが、職場でいじめを受ける事が日常だと言うのか?
オルガさんのことを獣人と、
ここには、コンプライアンスがないのか?
それは絶対に許されないことだ。
「エリアス君、抑えてね」
アリッサさんの声が聞こえる。
「仕方がないのです。私は器量が悪くこの歳まで独り者ですから」
ノエルさんは、けして器量は悪くないと思う。
二十年くらいしかまだ生きていないのに、なにを悲観的になるんだ?
藍色の長い髪は、とても綺麗だ。
そして女性は二十歳を過ぎた頃から、体に丸みが出てきてムフフなのだ…。
「では、好みなのだな?」
はい?なんでしょうか、オルガさん。
「エリアス、さっきから全部、口に出ているぞ」
え~、そんな…。
「後は私達で話を付けるから」
えっ~?
なんの話?
アリッサさんとオルガさんが、受付の前に出て俺は後ろに下がった。
そして2人はノエルさんと話はじめた。
するとノエルさんはさっきまでの、暗い顔とは違い嬉しそうな顔をした。
この一瞬で、良いことがあったのかな?
そして小さい声で何やら聞こえる。
いつから来れるの?
夜は体力ある方?
ローテーションだけど大丈夫?
そんな声が聞こえる。
いったい何の話をしているんだ。
いつから来れるの?て。
夜は体力が必要でローテーション??
夜勤のバイトの話?
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読んで頂いてありがとうございます。
物語はまったり、のんびりと進みます。