第54話 スティルワイン

文字数 2,156文字

 モグ、モグ、モグ、
「美味しい!!」
「本当ね!」
「内臓肉も美味しいわ!!」

 みんな口を手を忙しそうに動かしている。

「ワイルドボアのお肉もありますから食べてくださいね」
 俺はそう言うと部位ごとに肉を皿に分けた。

「エリアス、どうして肉を更に分けているんだ?」
 オルガさんが不思議そうに聞いてくる。
「肉が付いていた場所によって、肉の美味しさが違うからです」
「そう言うんものなのか?」

「例えばこれは適度に脂肪がのった肩肉のロースです。そして適度な脂が付いているアバラ肉のカルビです」
「そんなに違うのかい」
「えぇ、食べてみてください」

 ジュ、ジュ、ジュ~~。

「本当だエリアス。柔らかさと肉の旨味が全然違う!!」
「そうでしょうオルガさん。そして次はこれです」
 そう言うと俺は串に肉とタマネギや長ネギを刺した串を出した。
「なんだいそれは?」
 商業ギルドのアレックさんが珍しそうに聞いてくる。

「こうして肉と野菜を一緒に食べるのです」
「ほう、それはいいな。屋台で肉だけだと高いが、野菜を間に挟めばお腹も膨れ安く済みそうだ」

 この世界では酪農が無い。
 肉は狩人や冒険者が森に行き、魔物や野獣を毎日狩り食卓に届ける。
 そのためどうしても割高になる。

「そう言えば、喉が渇いて来たわ」
 商業ギルドのノエルさんがポツリと言う。
 おぉ、それは気付かなかった。
 飲み物無しで、塩や胡椒の肉を食べ続けるのはきつい。


 この世界では水も貴重だ。
 街中では井戸しか水が汲めず、近くになければ水は飲めない。
 その為、飲むときは水より日持ちが良い、ワインが水代わりになっている。

「すみません、これは気づきませんでした」

 俺はストレージの中にある赤ブドウを時空間魔法で時間を加速させた。
 そしてアルコール発酵させ赤ワインを創った。
 ストレージ内は時空間魔法で時間が停止している。
 だが時空間魔法なので時間を、加速させることもできる。
 しかし使い方としては、こんな地味な使い方しかできないのだが。

 俺はストレージの中の『創生魔法』で、ワイングラスを人数分だけ創り手渡した。
「さあ、みなさん。飲んでください」
 俺はストレージからワインを樽で出した。

 すると手渡されたガラスのワイングラスを、驚いように凝視している人達がいる。
 商業ギルドのノエルさん達と、アバンス商会のアイザックさん達だ。

「こ…「はい、エリアス君の秘書、私アリッサが対応いたします」
 一言言っただけなのに、アリッサさんが出て来た。


 みんなそれぞれ樽から、ワインを注ぎ飲み始める。
「美味しい~!」
「口当たりが最高」
「これは赤ブドウですね。コクがあって美味しいです!!」
 ノエルさんが美味しそうに飲んでいる。

「この厚みがある、まろやかな風味はいったい」
 アイザックさんが驚いている。
「エリアス様、この赤ワインは何年物なのでしょうか?」
 赤ワインは長期熟成ではないから…。

「2年ものです」
「2年ものですか?!それにしてはコクがあって美味しいですな」
「喜んで頂けてよかったです」
「では、これをどこで手に入れられたのでしょうか?」
 はっ?それを聞く?買ったとはいえないな。
 どこでと言われたら困るから。

「俺が趣味で作ったのです」
「ほう、エリアス様がですか?!それは素晴らしい!!」
 アイザックさんはしきりに感心している。
「エリアスがワインを作っているなんて聞いてないぞ!!」
 オルガさんが聞いてくる。
 言ってません、俺も今日初めてです。

「まさかアリッサさんの為に内緒にしていたのかな?」
 ま、まさか。
「まあ、私の為に。嬉しい~」
 アリッサさんは頬に両手を当て、クネクネしている。


「このワインの名前はあるのでしょうか?」
 アイザックさんが聞いてくる。
 名前?たしか赤ワインは…。

「スティルワインです(泡立たない非発泡性の、ブドウの果汁を発酵させたお酒)」
平穏(スティル)ワインですと?!なんとお二人の門出に相応しい名前なのでしょうか」
「も、もう、エ、エリアス君たら~」

 クネクネ、クネクネ、クネクネ、クネクネ
    クネクネ、クネクネ、クネクネ、クネクネ
 アリッサさんがクネクネしながら、どこかに行きそうだ。

 貴方の為に造ったワインです、と言われたら女性はどんな気持ちだろう。


「この赤ワインを我が…「はい、ここからは私アリッサが対応いたします」
「やはり、そうですか…」

「では。ご希望の方は順番にどうぞ!あっ、押さないで!!押さないでください」
 アリッサさんが1人で何やら寸劇を始めている。



「私は冷蔵庫をお願いします」
 アバンス商会のアイザックさんと、商業ギルドのアレックさんも欲しいと言う。

 結局、売り出すものは冷蔵庫3種、90L、150L、230L。
 照明の魔道具は天井に付ける蛍光灯タイプの物を。
 ポールタイプの物は地面に埋め込むので、面倒なのでお断りした。
 そして魔道コンロだ。

 一般的な魔道具は高価な上に、動力になる魔石の消費が激しい。
 俺の魔道具は目的に必要な刻印に魔力が込めてあり、従来の物より魔石の消費が30%も少なくなるエコタイプだ。

 さすがにこの屋敷のような設備はまだ売り出せない。

 それからワイングラスは数があった方が良いと思い24個。
 ワイン自体は売るほど量が無いので、販売しないことにした。
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登場人物紹介

★主人公


・エリアス・ドラード・セルベルト


 男 15歳


 黒髪に黒い瞳 身長173cmくらい。


 35歳でこの世を去り、異世界の女神により転移を誘われる。

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