第64話 帰宅時間とお迎え

文字数 3,745文字

 俺とオルガさんは商業ギルドに納品と、ボタンの特許を申請した。
 まさか魔道具の卸値が、家のローンも一括で完済できる金額だったなんて。
 アバンス商会に売る金額は、その倍になりそうで考えただけでも凄いことだ。

 明日から王都に行くので、食材やポーションを買っておく。
 なにが必要になるかわからないからね。

 今日の食事は何を作ろうかな?
 あぁ、そうだ!!
 俺は小麦粉の柔らかいパンと、オートミールの硬いパンを買った。
 この世界は小麦粉は少し高級で、お金のある人は小麦粉の柔らかいパンを。
 無い人は硬いオートミールのパンを購入して食べている。

「おい、エリアス。そんな硬いパンを買ってどうするんだ?」
「まあ、見ていてください。美味しいものを作りますから」
 俺はそう言って笑い、他にもサラダ油や露店でオーク肉を買い込んだ。
 

 そう言えばアリッサさんは、何時まで仕事なんだろう?
 この世界は時間が曖昧だから、8時間労働ではないのかも?

「オルガさん」
「なんだい?エリアス」
「どこかに勤めた場合、労働は1日何時間ぐらいですか?」
「う~ん、そうだな。農民なら陽が昇ってから、暗くなるまでだと思うけど」

「やっぱり、そうなんだ」
「でも、どこかに勤めれば8時間くらいだな」

「勤め人は違うのですね」
「もちろんさ。アリッサさんは6時くらいに屋敷を出て行ったから、15時には仕事が終わるかもな」
「そうですか。では丁度帰り道だから、冒険者ギルドに寄って聞いて帰ろうかな」
「そうだな。寄って行こうか」



 俺達は冒険者ギルドに寄ることにした。
 ギルドのアコーディオンドアを開け中に入る。
 時間は昼前で、冒険者は一人もいなかった。

「あれ?エリアス君、どうしたの?」
 受付に居たコルネールさんが声を掛けてくれた。

「アリッサさんに用事がありまして…」
「まあ、ちょっと待っててね。聞いてくるから」
 あれ、聞いてくるから?
 普通は呼んでくるから、ではないの。


 コルネールさんはそう言うと、二階の階段を上がって行った。

 しばらく待っていると、コルネールさんは二階から降りて来た。
「エリアス君、良いわよ。ギルド長が会いたいって」
 ギルド長が会いたい?
 どう言うことだろう?
 俺はアリッサさんに会いに来ただけなのに。

「一度、会っておくのもいいさ」
 オルガさんは会ったことがあるらしい。
 そう言うので会う事にした。



 俺達はコルネールさんに案内され二階に上がる。
 トン、トン、
 コルネールさんがドアを叩く。

「どうぞ、入ってくれたまえ」
「失礼します」

 コルネールさんがドアを開けてくれ、俺とオルガさんは部屋の中に入る。

 イッ!
 部屋に入った途端、嫌な感じがした。

 中に入ると魔物がいた!!
 オーガだ!!なぜこんなところに?!

 俺は両手を上げストレージの中で、黒作大刀(くろづくりのたち)の柄を握り上から下に振り下ろす。
 黒作大刀(くろづくりのたち)緋緋色金(ヒヒイロカネ)を鋼に混ぜて作った全長1.5m近く、重量は20kgはあるトゥ・ハンデッド・ソードの大剣だ。
 重さと勢いで相手を断ち切る。

〈〈〈〈〈 ガァギィ~~~ン!! 〉〉〉〉〉

 なんと、オーガに俺の剣戟が防がれた。
 最近のオーガはこんな大剣を持っいるのか?
 オーガロードか?!

 だが剣は引けない。
 引いたらやられる。

 このまま剣を打ち合ったままの体勢なら考えがある。
 アスケルの森でストレージに貯めた魔素を魔力に変換!!
 剣に纏わせウオーターカッターで相手の剣のごと叩き切る!!
 
〈〈〈〈〈 ズゥ~~~ン!! 〉〉〉〉〉

 俺の体を中心に魔力が大きく膨らみ広がって建物がきしむ。

「…るかった、俺が悪かったから…」
 なんと、オーガが何か言っている!!
 そういえば俺には【スキル】異世界言語がある。
 だから魔物の言葉もわかるのか?
 最近、冒険なんてしてないから、すっかりスキルなんて忘れていたけど。

 こいつを倒せばいくらで、売れるのだろう?
 でもなぜ、冒険者ギルドにオーガが?!



 
「…リアス君、エリアス君、しっかりして!!」
 声がする方角を見るとアリッサさんがいた。
 あれ、どうしたんだろう?
「ギルマスがエリアス君に、ちょっかいを掛けたのが悪いんですよ」
「あぁ、だから謝っているだろう」


 な、なんだと!!
 この国ではオーガは人の部類に属するのか?!
 わからないものだ。

「エリアス君だね、その前にその剣を引いてくれないか」
 俺はそう言われ剣をストレージに収納した。

 あっ、という感じの、少し驚いた顔をした。
「まあ、かけてくれ」
 俺とオルガさんはソファーに座った。

「驚かせて悪かったね、私がここの冒険者ギルド長のパウルだ」
 そう言って自己紹介をする。
「それから私はオーガではなく人間だから。どの国でもオーガに人権は無いから」
 な、なんとオーガ似の人が居るなんてそんな…。
「オーガ似と言われてもな、彼はいつもこんな感じなのかね」
「まあ、大体そうですね。ギルド長」
 アリッサさんは、ギルド長の横に座り話している。

 騒ぎが収まったのを見届け、コルネールさんがドアを閉めた。
 そして階段を下りていく足音が聞こえた。

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 アリッサが冒険者ギルドを辞めたいと言い出した。
 そんな時だ、エリアス君という少年がアリッサを訪ねて来ているという。

 それなら一度、会っておこうと思った。

 実際に会ってみると、アリッサが気に入る訳が分かった。
 黒髪、黒い瞳の美形の少年。
 エルフは美形が多い、そして奇麗なものが好きだ。
 それは人に対しても同じで、だからこそ面食いなんだ。

 それにこの少年は私の鑑定眼を弾いた。
 部屋に入ってきた時に鑑定したが見事弾かれた。
 と、言う事は彼も鑑定を持っており、私よりレベルが上だと言う事になる。
 私よりはるかに若いこの少年がだ。

 そして私に鑑定され彼は攻撃されたと思ったのか、即座に反応し私に攻撃を仕掛けてきたのだ。
 私も50歳を過ぎ若い頃には劣るが、体は鍛えている。
 これでも元Aランクだ。
 いつでも対応できるように容量は小さいが、マジック・バッグを持っている。
 その中に仕舞ってあった、ミスリルソードを咄嗟に出し彼の剣戟を防いだ。

 彼は私をオーガと言うが、今でもオーガ程度なら私は負けることは無い。
 その私が彼の剣戟に押された。
 彼の技もなにもない、ただの力任せの剣戟にだ。

 そして彼は勝負が付かないと思ったのか、魔法攻撃に移った。
 しかもとてつもない魔力を溜め、放出しようとしていた。
 このギルド全体の建物が、揺れるくらいの地震のような魔力が集まっている。

 ふと見るとコルネールが、恍惚とした顔をしてエリアス君を見ていた。
 ラミア族は、魔力が好物だからな。

 アリッサが止めてくれなかったら今頃は…。
 私だけではなくこのギルド周辺ごと、跡形も無く吹き飛んでいたかもしれない。




「エリアス君、私を訪ねて来たと聞いたけど、どうしたの?」
「いや~帰りの時間を聞くのを忘れたから。何時に仕事が終わるのかと思って…」
「そ、それだけ?」
「えぇ、そうです」
「まあ、エリアス君たら」
 アリッサさんは両手を頬に当て、クネクネしている。
「今日は15時は終わるわ」
「そうですか。これからは3人での生活になるので、食事は経済的に外食ではなく俺が作ろうと思いまして」
「エリアス君が作ってくれるの。それはこれからが楽しみだわ」
「楽しみにしていてくださいね」

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 私はギルドマスターとして、考えなければいけない。

 アリッサとエリアス君は見つめ合い、ニコニコしている。
 帰宅時間を聞きに来ただけだと?
 普通は職場に、そんなことを聞きに来ない!!

 それを見ているオルガも何も言わない。
 いくら虎猫族が一夫多妻制だからといっても、ここまで寛容になれるのか?
 オルガはまるで手のかかる弟を見守る、優しい姉の様な目をしている。
 
 だが彼は危険だ。
 誰かが側にいて舵を取ってあげないと、世界の敵にもなりかねない。

「いいや、もう帰っていいぞアリッサ」
「えっ?!いいんですか?ギルマス」
「あぁ、だがちょっと残ってくれ。話がある」
「分かりました。2人共、飲食コーナーで待っていてくれる?」

 そう言われエリアス君とオルガは部屋を出ていった。

「アリッサ、この冒険者ギルドを辞める話だが…」
「はい」
「それはできんが、これからエリアス君の側に居ればいい」
「どう言うことでしょうか?」
「今までのようにギルドには出社せず、エリアス君の側で彼を守る専属のエージェントになれば良いのさ」

「そ、それでは彼の側にずっといて良いと…」
「そうだ、そして何かあれば都度、ギルドに報告は必要になるがな」
「わかりました、ありがとうございます」
「人の命はエルフより短い。彼が嫌になるまで側に居ればいい」
「嫌になることは、無いと思います」
「ではある意味、エリアス君のところに永久就職するようなものだな」
「まあ、永久就職だなんて…」

 アリッサは頬を染め、恥ずかしがっている。
 そんなに彼が良いのか。
 酸いも甘いも知っているアリッサを夢中にさせる少年。
 君はこれから、どこに進むのだろう。
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登場人物紹介

★主人公


・エリアス・ドラード・セルベルト


 男 15歳


 黒髪に黒い瞳 身長173cmくらい。


 35歳でこの世を去り、異世界の女神により転移を誘われる。

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