第20話

文字数 589文字

 二人が出てくと、再び拷問が始まる。繁蔵は虫の息ゆえ、力加減が難しい。朦朧とする意識の中、あの栃の大木が味方によって発見されることを、切に願った。目の前がかすんでいく。がなり立てる声が、どこか遠くに聞こえている。呼吸は、口元に顔を寄せなければ感知しづらいほどに、弱々しい。

「頭領様、お許しを」
「おい、なんと申した。おい」

 鍛え上げられた忍びの聴覚をもってしても、繁蔵の最期の言葉は、ただ息が漏れる音にしか聞こえなかった。直後、繁蔵の身体は幾度か痙攣を起こし水を浴びせようが殴りつけようが、なんの反応も示さなくなってしまった。

「くそ、死んだか」

 三四郎が吐き捨てると、念のために呼吸と心音を確かめる。どちらも停止していることを確認すると、縛り上げていた縄をいったん解き、両手を後ろ手に首と両足首をつなぐように縛り上げた。

「夜になったら、どこかに捨ててこい」

 三四郎は拷問を手伝っていた二人に命じると、汚れた床をきれいに浄めるため井戸へと向かった。於須恵たちが戻ってきたときには繁蔵の遺体がどこにもなく、半狂乱で仲間に詰め寄ると、しぶしぶ北の山に埋めたと言われた。

「息の根を止めるのは、私がしたかった」

 悔しさに唇を噛みしめても、死んでしまった繁蔵は、もはやここには存在しない。半日前まで繁蔵が横たわっていた場所を憎々しげに見つめながら、於須恵は苛立ちを隠すことなく地団駄を踏んだ。
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