2-4.知らない2

文字数 688文字

美羽は柱の影まで必死に駆け走ると、なんとか辿り着き、柱の影に隠れて左右を見渡した。



(に・・・逃げなければ・・・)


柱を離れて路地を抜けて大通りに出る。その時ようやく下半身が全くの無防備状態であることに気付いた。

慌てて股を両手で押さえて元の路地に戻る。



(ど・・・どうしよう・・・)


着替えは全部スーツケースの中だ。何とかしてあのタクシーのトランクを開けなければ。



美羽は仕方なく柱の影に戻った。

今なら誰もいない。一気にタクシーに向かって駆け走ろうとした時、急に右手を掴まれて抱き止められた。


「ひゃあああ!」


「落ち着いて、落ち着いて美羽ちゃん、僕だよ。沖津だ」


暴れる美羽を沖津が抱きかかえた。

「ほら、美羽ちゃんのスーツケースだよ」

沖津が美羽にスーツケースを見せる。

美羽は何とか気を取り戻し、スーツケースを受け取った。



「はあっ、はあっ、はあっ、、、」



過呼吸が酷くなってきた。

「大丈夫?これを飲んで、まずは落ち着こう」



美羽は沖津に差し出されたペットボトルのウーロン茶を一気に飲みこんだ。



「あの黒髪女、桂木(かつらぎ)凛子(りんこ)には僕のことを何か聞かれた?」



美羽は必死に思い出す。混乱が落ち着かない。



「で、なんて答えたんだい?」


「し・・・知らない、私は何も知らない・・・」


沖津は美羽の頭を撫でた。


「うん、とてもいい答えだ」



沖津の顔がぐにゃりと曲がった。



「ま・・・また?」



「同じ手に引っかかってしまうのはちょっと注意力が足りないね。でも色々あって疲れただろう、ゆっくりおやすみ」



その言葉を最後に美羽の目の前は真っ白になり、再度気を失った。
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