7-1.役員面談

文字数 1,208文字

2023年3月28日(火) -7日目-

沖津は神野重工東京本社の役員室に呼ばれた。

ノックをして沖津は役員室に入った。

役員室には、神野重工軍事企画室の坂崎室長と神野重工グループ取締役の深澤(ふかさわ)専務が椅子に座っていた。



「よくやってくれた、沖津君」



深澤専務は立ち上がると、沖津に右手を差し出した。

沖津はやや躊躇して、今回の任務の依頼主であるその人物の右手を掴んだ。



「神野清美社長と鬼頭の行動は目に余るものがあった。彼女らが今まで行ってきた悪事の全てを明るみに出す。その賭けに出るためには、この任務はどうしても達成しなければならなかった」



「神野淳一会長の遺書が入ったこのUSBメモリは、貴方の作り物だったんですね」

沖津が、USBメモリをテーブルの上に置き、深澤専務に問いかけた。



「ああ、その通りだ。
神野淳一会長は、個人資産の一部を孫の篠谷美羽に相続させるという遺書を書き残しただけだ。
まさか神野清美社長を追い詰めるために作った偽物の遺書が、こんな大事件に発展するとは思わなかった。
今回のこの騒動を引き起こしてしまった根本的な原因は、完全に私の落ち度によるものだ、深く反省している」



深澤専務は深々と沖津に頭を下げた。



「神野清美社長は逮捕された。
神野清美社長に近かった役員連中も、退陣は避けられないだろう。
しかし、我々もまた、罪を犯し過ぎた。
その大罪を償い、次世代を担う者達に傷痕を残さないように、今回の事態も含め後始末することが、私に残された最後の任務だ。
君の活躍については考慮する。あとのことは坂崎君から引き継いでくれ」



そう言い残して、深澤専務は役員室を出た。

✳︎

役員室には沖津と坂崎室長が残った。



「鬼頭に撃たれた傷はどうかね?」



坂崎室長が沖津に問いかけた。

「順調に回復しています。
・・・あの、篠谷美羽は?」



「彼女は、母美代子と暮らしていた沖縄に帰ったそうだ。両親との思い出を大切にして、新しい生活を始めたいと言っていた」



「そう・・・ですか・・・」



・・・篠谷美羽は故郷の沖縄に・・・。

寂しさ、喪失感、はがゆさ、空虚感、沖津はそれらとも似て非なる何とも言えない感情に包まれた。



坂崎室長が折れた右腕を支えるギブスを左腕で抱えながら椅子に座り直した。



「我々の任務は依然として続いている。余計な感情は任務遂行の妨げになることは分かっているはずだ。
神野重工グループの始祖、神野淳一会長の目指した経営理念、その想いに応えるためにも、あの娘のことは忘れたまえ。
それが神野重工軍事特殊機動部隊の筆頭戦闘員としての君の使命だ」



そう言うと坂崎は立ち上がり、沖津の肩に手を置いた。



「ま、まずは傷を癒したまえ。ゆっくり身体を休めるんだ。他にも君に任せたい仕事は数多く残っている」



坂崎室長が役員室を出ると、役員室には沖津一人が残された。

しばらく沖津は役員室に一人立ち尽くしていた。
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