6-1.思い

文字数 916文字

2023年3月27日(月) -6日目-

美羽は牢屋に裸のまま閉じ込められていた。



(沖津さんが、お母さんを・・・)

美羽は、神野清美が命じた、神野清美自身の腹違いの姉であり、美羽の母である篠谷美代子殺害の執行者が沖津だと知って、少し当惑した。



ただ、沖津を恨む気にはなれなかった。


なぜかは自分でも分からなかった。


この1週間近く、沖津は何度も身を挺して自分を庇って戦ってくれた。


過去がどうであれ、全力で自分を守ってくれようとしたのは、確かだった。


彼は今の自分にとってかけがえの無い友人だ。



・・・生きていて欲しい。



美羽が沖津に対して思うのはそれだけだった。

✳︎






「ヒョッヒョッヒョ、篠谷美羽さん、【お仕置き】の時間ですぞ」



小柄男の社長秘書 脇川に連れ出され、また美羽は手首を天井から吊るされた紐に結び付けられた。

「来ないわねぇ、あんたの足長おじさん。もうくたばったか、逃げたか」



神野清美が再び鞭を放つ。

美羽の背中はあざだらけだった。



朦朧としつつ、キッと美羽は神野清美を睨む。



「気に入らないわね、その顔。まだ諦めていないのかしら」



美羽の頬を掴んで様子を伺うように表情を確認すると、神野清美は語り続けた。



「もう死んでるかもしれないのよ、彼。
それに、例え生きていたとしても、相当な深手を負っている身。
さらに、この神野重工軍機生産工場には、鬼頭直属の100名近い特殊機動部隊の戦闘員が配備されている。
おまけに工場のセキュリティシステムは万全。
どう足掻いても1人であんたを助けにくることは出来ない。
工場の入り口で戦闘員達の集中砲火に遭って蜂の巣にされるのがオチ」



「・・・」



「それでも・・・来るって思ってる?」



「・・・」



「奇遇ね、私もなんだかそう思うわ」



興醒めしたかのように清美は鞭を下げた。



「神野社長!あれを!」

脇川がモニターを指差した。



モニターには、工場の前に一台の車高3メートル程の2トントラックが映っていた。



運転席に座っているのは、沖津だった。



(生きていてくれた!)



美羽の顔がほころぶ。



鬼頭が制御ルームに入ると、無表情のままモニターを確認した。
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