5-2.任務

文字数 813文字

沖津は救急スプレーを傷口に浴びせ、包帯で傷口を巻いた。



「私も現場を離れてかなり経つのでね、十分な治療ができなくて済まない」



折れた右腕に自分でギブスを付けながら坂崎は言った。



「いえ、十分です、坂崎室長。それより篠谷美羽がどこに連れ去られたのか分かりますか?」



「札幌だ、神野重工軍機生産工場。そこに篠谷美羽さんは捕らえられている。恐らく鬼頭や神野清美社長も待ち構えているだろう。明日中にあのUSBメモリを持ってこいとのことだ。それを君に伝えるために私は生かされたようだ」



沖津は拳銃を確認すると、立ち上がった。



「行くのかね?」



「はい、坂崎さん、この任務にあたり当初お願いしたものの準備は出来ていますか?」



「ああ、全て函館の倉庫に格納してある。持っていきたまえ」



坂崎は沖津に、神野淳一会長の遺書が入ったUSBメモリと、函館の倉庫の鍵を渡した。



✳︎



沖津は白のセダンに乗り込んだ。



「沖津君、一つだけ教えて欲しい」



運転席の窓から坂崎が覗き込んだ。



「何か?」



「君はこの今回の護衛任務を受ける義務は本来は無かったはずだ。既に特殊機動部隊を除隊している身なのだからね。あの方が頼み込んだというのも理由としてはあるかもしれないが、それはただのきっかけに過ぎないはずだ」



「・・・」



「だが今回の護衛任務対象者の篠谷美羽が、神野淳一会長の孫だと知って、君は受けることを決心した」



「・・・」



「それは、彼女が恩師の孫だからかね?

・・・それとも篠谷美羽が、君が除隊するきっかけとなった、あの6年前の事件の被害者の娘だったからかね?」



「これが恩義だとか、贖罪だとか、それは関係無いです。
ただ、僕は、一度は除隊した身ですが、今は、特殊機動部隊の戦闘員として再度任務を受けています。
任務を受けたら、遂行するだけです」



「そうか、分かった、検討を祈る」



沖津は白いセダンを走らせた。
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