仇討ちー後編ー

文字数 7,269文字

「何じゃお前ら!」

盛本が追いつき、険しい顔で怒鳴る。
伝之助と健太に気付いたようだ。

「盛本、お前はぐわんたれをそんまま絵に描いたような奴じゃの」

優之助は体を起こして様子を見た。
盛本が伝之助を見てたじろいでいる。

「な、なんや。お前何で俺の事知ってるんや。お前は誰じゃ」

「おいは大山伝之助ち言うもんじゃ。覚えたか?もう一度言うど。大、山、伝、之、助じゃ。存分にそん名を刻み、おいの名に恐怖せい。そいでおいに会うたこつを後悔せい」
「何やと」
「こいは健太っちゅうもんじゃ。お前、岡山の刀鍛冶を斬り殺したじゃろ。健太はそん仇討ちに来た。おいはそん手伝いをしてくれち依頼を受けた」

伝之助はこの期に及んでも緊張が見られず余裕を見せている。
対し、健太はまるで自分が今から盛本と斬り合うかのように強張った顔をしている。

「仇討ちやと……お前ら、もしかして……嵌めたんか!」

盛本は小刻みに震え、取り乱していく。
その様子を見て伝之助は不敵に笑う。

「何を今更、あんなもん、何年も前の事やろが!」
盛本が唾を飛ばして喚き散らす。

この外道め……優之助は盛本を睨みつける。

「年数は関係ない。盛本、お前はこの人の父上を斬った。その報いを受けるんや」

優之助が立ち上がって言った。
盛本を見ていると怒りが込み上げてくる。

「お前……俺をここに連れてくる為、罠に嵌めやがったな」

「おう、嵌めたったわ!端金(はしたがね)ちらつかせたら機嫌ようついてきて、阿保みたいに自分の悪行を話して金をせびるもんやからここに向かって走ったら、間抜け面晒(さら)して必死こいて追いかけてきよった。自分の行いを後悔するんやな!」

怒りを撒き散らす様に言葉を吐き出した。
それを見て伝之助が手を叩いて笑う。

「まっこておもしろか。優之助、よう言うた」

そんな伝之助を見て優之助は戦慄が走る。
今から盛本と斬り合うと言うのに微塵も気負った所がない。
いつも通りだ。

いや、いつも通り過ぎる。
無理して平静を装っているようにも見えない。

伝之助にすれば斬り合いなど日常の一場面でしかないというのだろうか。
他人の思惑で誰かを斬らされる事には抵抗があるようだが、自分の意志で斬るとなると迷いがない。

こいつも歪んでいるのかもしれない。
だがその歪みは今の所悪い方には働いていない。

「お前、調子に乗りやがって……」

盛本は今にも沸騰しそうな程に怒りきっている。
しかし声はか細く、態度に勢いはない。
伝之助を意識しているのだろう。

喧嘩を売り騒ぎを起こすと言っても相手を見てやっていたのだろうとは思ったが、こうもあからさまだと侍のくせにあまりにも情けない。
いつも先程のような町人相手に突っかかっていたのだろう。

「もうよか。最後に言い残すこつはなかか」

伝之助の纏う気が一気に変わる。
ぴんと空気が張り詰め、伝之助に近付く全てのものが切り裂かれるかのようだ。

「ま、待て!俺の話を聞いてくれ!」

盛本は両手を前にして請い、泣きそうな面になる。

ちくしょう、腹が立つ。

「今更なんや!」
優之助がぐいっと一歩前に出た。

伝之助がいるから怖くない。
まさに虎の威を借る狐だと思ったがそれで結構だ。

しかしそれを好機と見たのか、盛本が刀の柄に手を掛けようとする。

しまった――と思うも束の間、伝之助が視界から消える。
次の瞬間、何かが宙を舞う。

「ぎいやあああ!」

盛本が右手を抑えて叫ぶ。
宙を舞ったのは盛本の右手首であった。

伝之助はすぐさま手拭いを盛本の口の中に入れ込む。
盛本の叫びはくぐもるばかりとなった。

「うぜらしかのう」

伝之助が蔑(さげす)み見る。
盛本は辛うじて立っているが、血が噴き出す右手を抑えている。
今にも崩れ落ちそうだ。

「伝之助さん……斬ったんですか?」

優之助は状況が未だ掴めず呆気に取られ、あまりに間の抜けた声で聞いた。

「おう。こいつが柄に手を掛けようちしたからの」

態勢低く飛び込み瞬時に距離を詰め、白刃が煌めいた時には斬られている。
これが天地流の抜刀術である。

天地流の抜刀術は居合斬りとは違う。

居合いは後から動いて先に斬る。
しかし天地流の抜刀術は先に動いて先に斬る。
抜いたら即斬る事を念頭に置き実行する。

「ほ、ほんまに斬った……」
健太はがたがたと膝を笑わせて言った。

伝之助は血が噴き出す手首を抑えて叫び続ける盛本の左大腿を、切っ先が隠れる程度に浅く刺した。

盛本は目を剝く。
そのまま刀を払うと刺さった切っ先が大腿から出てくる。

盛本は左足を突き裂かれ悶絶し、血を流してついにその場に倒れ込んだ。

「お許し下さい……お許し下さい……」

手拭いに邪魔されてはいるが、何とか聞き取れるくぐもった声で呪文のように唱える。

盛本は死を覚った。
痛みに悶えながら今までの事が頭に廻った。

盛本が十二の時、母を流行り病で亡くし、後を追うように同年父も同様の病で亡くした。
元服を済ませていた四つ上の兄は弟の盛本を見捨てて家を出、盛本は親戚をたらい回しにされた。
殴られ蹴られはなかったが、蔑まれ誰も相手にしてくれなかった事が盛本を傷つけ歪ませていった。

後ろ向きな考えをするようになり、相手が自分を悪く思っていると考え、気に入らない事に突っかかるようになった。
もちろん相手はしっかりと選んだ。

絡んでいる間は相手にされ、恐れられる。

今まで散々虐げられてきたのだ。
だから俺は誰かを虐げていいのだ。
そう思い自分の事だけを考えて生きてきた。

人に傷つけられる事の辛さを知っているのに他人を傷つけ、何よりも家族を失う辛さを知っていたはずなのに他人の家族を奪った。
それらの行いは見事に自分へと返ってきた。

死を前にした今、ようやく自分自身が最も自分の事を大切に考えていなかったと気付いた。
そしてこれまでの行いを初めて心の底から後悔した。

「許しは奉行所に捕えられた時に請うとじゃ。おいらは仇討ちに来ちょう。命乞いは通用せん。恨みを晴らす為お前の命を奪いに来よっとじゃ」

伝之助は無慈悲に他人事のように笑って言う。

その様は真に地獄の鬼のようだ。
薩摩隼鬼(さつましゅんき)とはよく言ったものだと妙に納得した。

「健太、今ならおはんにもやれっど。はよ討て」

健太は目をぎゅっと瞑って首を振る。
伝之助は表情一つ変えない。

やっぱり狂ってる……優之助は盛本の変わり果てた姿と伝之助の様子に恐怖した。

「はよ討てち」
「む、無理です!」
「ないごて無理じゃ!お前が討たんといかんとじゃ!」

伝之助が血相を変えて怒鳴るも、健太は涙を流して頭を抱える。

「で、伝之助さん。け、健太さんには無理です」

優之助が震える上ずり声で健太に助け舟を出す。
優之助の膝も笑っている。

「お前は黙っちょれ。健太、よかか。こいはお前んけじめじゃ」
「やっぱり俺には出来へん。人を殺したくない。俺とおさきはもう関係ない!」

健太は頭を抱えたまま叫ぶと、その場に崩れ落ちた。

「な、何を言うてるんですか健太さん。怖いのはわかりますけど、おさきの事が関係ないなんて言うたらせっかくの兄妹やのにおさきが可哀想ですよ。健太さん、ここまで頑張ったんはちゃんとおさきには言いますから、あとは伝之助さんに――」
「俺はおさきと兄妹やない!」

健太が優之助の言葉を遮り、悲鳴じみた声で叫ぶ。

「え……どういう事ですか」

何が何だか分からなくなる。
健太は泣きながら「堪忍や」と小声で何度も呟いている。

「もうよか。健太。お前の刀、おいに寄越せ」

健太は動かない。
伝之助は和紙で自身の刀を拭い、納刀する。

そして片手で健太の肩を掴んで引き起こすと、もう片方の手で出鱈目に腰に差している刀を奪った。
伝之助が手を離すと健太は再び丸まって崩れ落ちる。

「刀の差し方も知らんお前に端から期待しちょらん。じゃっどん侍やなか言うても、男としてのけじめはつける思うちょったがの。ほんのこて情けんなか」

伝之助は健太の刀を抜き、泣き喚く盛本に近寄り引き起こす。
盛本は抵抗せず、逃れられない死を受け入れるように首を垂れて座り込む。
その様は首を差し出しているかに見える。

……まさか――

優之助がそう思った瞬間、伝之助は一辺の躊躇もなく盛本の首を斬り落とした。
盛本の泣き喚きがぴたりと止み、首を失った体は糸が切れた様にその場に倒れ込んだ。

優之助は初めて人の首が斬られる瞬間を見た。
健太がやるにせよ、伝之助がやるにせよこの結末はわかっていたはずで覚悟していたつもりだったが、優之助にとってはあまりもの衝撃であった。

盛本の手首が斬られた時から現実感が無くずっとふわふわしていた。
気を抜くと膝から崩れ落ちそうで必死に立っていた。

盛本はそれこそ死んでしまえと思うほどの人間だったが、さっきまで話して動いていたものが、本来繋がっているはずの首と胴が切り離され無残な姿となり話す事も動く事も無くなった。

こうも間近で人が斬られる所を見ただけでなく間接的とは言え自分が関わっている事を思うと、いくら相手が悪人とは言え複雑な心境となった。
そう言う事は誰かがやってくれて自分は悪人が消えてくれる事を願うだけかと思っていた。
しかし今回は実行する側に回った。

伝之助が「人一人を殺す手伝いをする事」と言っていたのは優之助自身に向けられた言葉でもあったのだ。

落ち着け、最初から分かってた事や。
依頼を受けた時から分かってた事や。

そう、分か……ってた……
「うっ」

胃の中のものが逆流してくる。
口に手を当て川に向かって駆け出す。

「おえぇっっ」
たまらず川に嘔吐物を吐き散らした。

「汚かやつじゃの」

伝之助は優之助の様子を横目に刀を鞘に納めると、首だけとなった盛本の髷を掴み、健太の前に置く。
健太は体をびくつかせたが一向に顔を上げようとしない。

「ほれ、仇の首じゃ。お前が討ちとったこつにしたらよか。お上にやっと務めを果たしましたち言うとじゃ。じゃっどんおさきにはありのまま言う。こん刀はおさきに返す。よかな」

伝之助の口調は有無を言わさない。
健太は小さく頷く。

「お前、おさきの兄やなかの」

健太はまた小さく頷いた。

「場所、移すど」

言い終わるや伝之助が歩き出す。
健太は盛本の首を見ないように立ち上がり、伝之助に着いて歩いた。
優之助は口元を拭い、慌てて後を追う。

しっかりしろ、盛本の死に衝撃を受けている場合ではない。
健太がおさきとは兄妹でないと言っていた。
真相を明らかにしないといけない。

三人は仇討ちがなされた場所から離れた河川敷で立ち止まると、伝之助が健太に向き直った。

「話せ。場合によっては許さん。じゃっどん嘘ついたらもっと許さんど。お前が知らんち思ちょるこつもおいは知っちょうからの」

健太は泣き止んでいるが、青い顔をしたままである。

「わ、わかりました。私は、おさきの兄ではないです。私とおさきは……恋仲でした」

恋仲?

「ちょっと、待って下さい。どういう事ですか」

盛本の衝撃はあっさりとどこかに行き、新たな衝撃を覚え、たまらず割って入る。

「どげんこつかは今から話すじゃろ。黙っちょれ」

黙っていたくはないが、ここは真相を聞き出す為にも口を挟まず聞いた方が良さそうだ。

「私はおさきの父上に師事していました。おさき達には随分とようしてもらい、師匠も一人前になったら一人娘であるおさきの婿になって跡を継いでくれと仰られてました。私も当時はそのつもりでした。しかしあの日……盛本が来て師匠が斬り殺されました。私は師匠が最後に打った刀で仇を討つと、勢い付いて飛び出しました。けど段々冷静に考えるようになって……盛本が大坂におると突き止めたんですけど決行できず、盛本を知れば知るほど恐ろしくなりました。私は大坂に留まりました。おさきとは文でやり取りをし、おさきは何も知らずに金を送り続けてくれました。しかし私は……おさきを裏切り大坂で所帯を持つ事になり――」

「もうええ!」

優之助は叫ぶと共に健太の胸倉に掴みかかった。

「おさきはなあ!健気に信じて必死に働いて仕送りしてたんや!怖くて中々出来へんかったていうのはかまへん。けど女作って所帯持って裏切ったんは許せん!なんでお前みたいなんが、お前みたいなんが……おさきの許婚やったんや。俺の方がいい顔やし、もっと大事にするのに……ちくしょう」

優之助は僻んだ。
僻みに僻んだ。
悔しくて涙が溢れ、下を向く。

「けどおさきは女を売って稼いだ金です。私も悲しい想いはさせられてるんです」
「なんやと……」

優之助は顔を上げ健太を睨み付けると、思い切り拳を鼻っ柱に叩きつけた。
健太は鼻から血を拭き出し尻餅をついた。

「おさきは体売るような事はしてへん!仮に売ってたとしてなんや!お前にどうこう言えるんか!おさきはな、飯屋で働いてるだけや!備前に母上を残して京に出てきて必死に働いて、母上にもお前にも金を送って自分は質素に暮らしてるんや!それをお前は、お前は!」

もう一度殴りかかろうとするが手が動かない。
見ると伝之助が優之助の拳を持っていた。

「もうよか」

優之助がきっと睨みつけると、伝之助が手を放す。

「腫れとるど」

言われて自分の拳を見た。

初めて本気で人を殴った。
殴り方も知らないのに拳を握りしめ力任せに顔面に叩きつけた結果、手が腫れていた。
折れてはいないだろうが、ずきずきと傷んだ。

健太がおさきと恋仲だった事も、おさきが裏切られた事も、何もかもが悔しかった。

「お前、所帯持って人殺しなんかしたくなかったんやろ。だから斬れへんかったんや。お前にとってもう、おさきもおさきの父上も仇討も、もうええんやろ」

健太は鼻を押さえ目を見開いて震えていたが、やがてゆっくりと頷いた。

「お前みたいなやつ、死んでしまえ!伝之助さん、依頼、受けてくれますよね。金なら払います。こいつ斬って下さい!」

優之助は涙を流したまま伝之助に向って叫ぶ。

伝之助は表情を変える事無く口を開く。
「ほう、高いど」

「構いません!」

こいつだけは許せない。
十両でも借金してでも払ってやる。

「そ、そんな……どうかお命だけはお助け下さい」

健太は泣いて頭を地面に擦りつける。

優之助はその上から容赦なく怒りの言葉をぶつける。

「あかん!許さん!お前は端から仇討ちする気が無かったのに俺らに人殺しをさせたんや!お前も盛本と同じで自分さえ良ければ他人はどないなってもええと思ってるんやろ!他人の人生踏みにじった報いを受けるんや!」

「堪忍して下さい。この通りです」

優之助がまた殴ってやろうかと思った時、伝之助が静かに言った。

「百両でどげんね」

「わかりました。百両で、て高っ!百両なんて払えるわけないじゃないですか!」
「まあ払えてもやらんど。お前、健太の気持ちわかるち言うちょらんかったか」
「こうなった以上はわかりません!」

あの時は健太の事情を知らなかった。

「じゃっでないがあっても忘れんなち言うたでなかか」

伝之助は溜息交じりに言う。
優之助が何か言い返す前に伝之助が続ける。

「優之助、こげなこつで人を斬ってくれち言うんはお前、そいこそ盛本と一緒でなかか」
「盛本と一緒……」

意外にも伝之助の諭すような言葉に少し頭が冷える。

「じゃ。お前が腹立てたから相手を斬っとか。金積んで嫌いなやつは斬ってもらうとか。そいこそ他人んこつ、踏みにじっちょらんか」
「いや、そう言うわけじゃあ……」
「おさきが裏切られたからか。おさきは健太を斬るこつを望んだとか」

優之助は返答に詰まった。

「優之助、こん健太ち言う男は贔屓目で見ても糞じゃ。じゃっどん殺すまでのこつかち言うたらどげんかの。お前がおさきに話してどげんするか聞いてみ。おさきが健太を殺したいち言うかも知れんが、お前はそいを止めておさきに前向かしちゃらんといけんとちごうか」

珍しく伝之助にしては真っ当な事を言う。
優之助は納得してしまった。

「……すんません、取り乱しました。確かに伝之助さんの言う通りです」

優之助は涙を拭いて一度深呼吸すると、健太を睨みつけた。

「健太。お前、二度とおさきに関わるなよ」
「はい、もうご迷惑はおかけしません」

健太は助かったとなると、ぱっと顔を上げて言った。
現金な奴だ。

「よか。そいなら依頼の金とおさきから掠めた金、返してもらおかの」

「え……」
健太の顔がまた青ざめる。

「おさきから半金の二両は受け取った。お前からは残りの二両を貰う。あとはおさきからお前に送った金を返してもらうど」

伝之助は悪意の籠った笑みを浮かべる。

「そんな……もうありません」

「なかで済まんど。人が汗水たらして働いた金を騙し取って、我がの娯楽にでも使うたか。そいか家族を養うのに使うちょったんかのう」
伝之助は可笑しそうに笑う。

何か下調べでもしていたのだろうか。
そう言えば今日まで五日あったが、伝之助は毎日外に出ていた。

「勘弁して下さい」
「うんにゃ、せん。払えんならお前、どげんなるかの」

たった今、あっさり盛本の首を斬った男にそう言われると震え上がるしかない。

「明日、朝の間においらがおる宿に金持って来い。おいらの依頼主はおさきじゃ。お前の嘘がわかった以上、おさきの損を補うんが筋じゃ。そうじゃの、今まで送った金、全部返せち言うのは無理がある。優之助、なんぼで勘弁すっとか?」

優之助はそれこそ百両と言ってやりたかった。
しかし確実に回収し、自分の怒りを収めおさきの憂さを晴らせる額……

「十両でどないです?」

「十両!」
健太が目を剝いた。

「十両か。大きく出たの。じゃっどんおいの相方が十両寄越せち言うとる。そいで勘弁するち言うとる。お前は人の手借りて仇を討ってもらい、我がの非も金でけりつけるち言うてもらっちょる」

伝之助はゆっくり歩き回って言うと、地面に座り込む健太の正面に腰を下ろす。

「十両言う金は果てしなく高い。じゃっどん、払えるの。明日の朝、待っちょるど」

健太は青ざめて俯き、うんともすんとも言えない。

「伝之助さん……」

優之助は今この時限りは伝之助が神仏のように思えた。
普段は鬼だが。

「いっど」

呆ける健太をよそに、伝之助はおさきの父が最後に打った刀を肩に掲げて歩き出す。

優之助は健太を一睨みすると、くるっと背を向けて歩き出した。
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