企み

文字数 725文字

ある上級武士の屋敷の一室にて、恰幅のいい悪代官顔の男は、不機嫌に頬をたるませていた。

「またしくじりおったんか」

「そのようですな。一人、命辛々逃げ延びて来た者がいてます」

悪代官顔の向かいに座る意地の悪い顔をした男が嗄れ声で答える。

「どの面下げて戻ってきよったんや。そいつは死刑や」
「もちろんでございます。それで今後はどうされますか」

意地の悪い顔の男の問いに、悪代官顔の男に代わって、その隣に座る卑屈な印象の男が進言する。

「もう一度送ってみてはいかがでしょう。それで上手く行かなければ何か策を練りましょう」

悪代官顔は不機嫌な様子のまま渋々頷き、意地の悪い顔の男に金の入った箱を渡す。

「いつもありがとうございます。すぐに手配します」

意地の悪い顔の男は慇懃に頭を下げると、そそくさと引き下がる。

それを見て卑屈な印象の男は悪代官顔の男に囁く。

「別室で女を用意しております」
「またどこぞで攫って来たんか」
「それは仕入れ先の者しか知りません」

とぼけたふりをしているが、その顔は肯定している。

「そうか。あれは癖になる。武家の女なら尚よしや」
「お求め通り、最近仕入れた武家の娘だそうですよ。中々に難しい所もあったようですが、しっかり調教したと言っておりました」
「それは楽しみや」

悪代官顔の男の不機嫌は吹き飛び、厭らしい笑みを浮かべる。と思うと途端に真顔となる。

「利用できる者は利用する。そうで無い者は殺す。特に奴だけは生かしておけん。策とやらを考えておけ」
「承知しております」
「うむ。では女の待つ部屋に行くとしよう」

悪代官顔の男はのっそりと立ち上がると、「ひゃっはっはっ」と趣味の悪い笑い声を上げながら部屋を出て行く。

卑屈な印象の男はその背中をじっとりと見て見送った。
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