水泳勝負
文字数 2,329文字
昼食を済ませた私たちは一旦ホテルに戻りました。
ホテルの中庭にはプールがありますので、
「タカ、泳がない?」・・と誘います。
しかしタカはイマイチ乗り気では無い様で、
「あのー、実はオレ・・カナヅチなんですよ」
運動神経抜群のタカにしては、これは意外でした。
「そうか。それじゃ僕が教えてやるよ。これでも元競泳選手だから」
「へえ。。師匠、水泳もやってたんですか」
私は水泳は、インチキな空手なんかよりもよほど得意です。
前作をお読みの方はご存知のように、私はかつてここチェンマイでトラブルにあったとき、水泳の経験のおかげで命拾いしたこともあります。
私は小学生のころ身体が弱かったため、健康のために親が水泳をやらせたのです。
スポーツ全般があまり得意でなかった私ですが、不思議なことに水泳の上達は大変早かった。
ご存知のように水泳と言うのは、理想的全身運動ですから、私の身体はみるみる丈夫になり、中学生のころには選手として活躍し、地方の大会ですが自由形で優勝したこともあります。
そういえば中学生のころにはすでに、私は空手の道場にも通っていました。
学校で水泳部の部活をこなした後、道場で空手の稽古をしていたわけですから、今思えばものすごい運動量です。若いってすごいですね。
私たちは水着を持っていませんでしたので、部屋に戻ってラジャで買ったムエタイ・トランクスに着替えてプールに行きました。
このホテルのプールはリゾートホテルにありがちな変形プールではなく、競泳用の50mプールです。
この手の中級以下のホテルというのは、なぜかあまり日本人を見かけません。
日本人は自由旅行ではもっと安いゲストハウスに泊まり、ツアーでは高級ホテルに泊まるものなのです。
ですから、プールサイドに居るのは、すべて白人の男女です。
泳いでいる奴より、日向ぼっこしている奴の方が多い。
そこにムエタイ・トランクスを履いている珍妙な東洋人の男がふたりですからすごく浮いていたと思います。
「師匠。なんか外人どもが皆んな、こっち見てますけど」
「気にするなタカ。タイでは僕らも外人なんだから。それより水泳の稽古だ。準備体操をしてからプールに入れ」
「押忍」
なんでもいいから、泳いでみろ・・・とタカに命じます。
指導する前に、タカの泳ぎのレベルを見なければ始まりません。
タカがクロールのような泳ぎで、10mほど進みます。
「なんだ。カナヅチだって言ってたけど、ちゃんと泳げるんじゃん」
「いや、息継ぎがどうしても出来ないんですよ」
・・・それなら簡単だ。
「息継ぎってのは無理に顔を上げなくてもいいんだ。クロールの手を水から上げるときに、後ろをふりかえる要領で自分の肘を見てごらん。そうしたら顔の前の水が切れて、呼吸が出来るから。鼻で吸っちゃダメだよ。口で吸うんだ」
元来、運動神経の良いタカは少しコツを教えてあげるだけで、すぐに息継ぎをマスターしました。
その後一時間ほど練習したあとには、50mを泳ぎきるほどになりました。
「もう大丈夫だよ。カナヅチなんて言わなくても」
「押忍。ありがとうございます」
そのときひとりの白人男性がプールにやってきました。
なかなか引き締まった体つきで、競泳用パンツに競泳用ゴーグルまで身につけています。
私たちのいる反対側から、水に入ると腕時計を見てから猛然とこちらに向かってダッシュしてきます。
フォームはまずまずですが、選手クラスではありません。フィットネスジムで水泳を習っていると言う程度でしょう。
このプールサイドにはセクシーなビキニを着た、白人のお姉ちゃんが何人もいますので、彼女らの目を意識したパフォーマンスかもしれません。
こちら側に到着した男は、時計のタイムを確認し、こちらを「何だこいつらは」というような目で見ますが、すぐに向こうを向いて、両手で水をすくい上げで顔を洗います。
そしてふたたび腕時計に目をやります。このとき私のスイマー魂に火が付きました。
男がプールの壁をけって飛び出すと同時に、私も飛び出します。
全力で泳ぐのは久しぶりですが、私がゴールに手を着いて顔をあげ、振り向くとバシャバシャと水しぶきを上げて、男が後からゴールします。楽勝だ(笑)。
私は現役をはなれてずいぶんになりますが、スポーツでも格闘技でも何でもそうですが、ある時期に選手クラスの訓練を経験したものと、素人の趣味とではレベルがまったく違うものです。
男は顔を上げると悔しそうな顔をして、指を一本立てて「もう一度だ」というように合図します。
しかし、何度やっても同じこと。
今度も私が身体ひとつ引き離して先にゴールしました。
お姉ちゃんたちの前で面目丸つぶれになった男は、不機嫌そうな顔をして、そのままプールから出てシャワールームへと消えていきました。
「いやあ、さっきの白人。なんか怒ってましたね」
「悪いことしちゃったかな?女の子の前でいいとこ見せたかったんだろうけどね。なんか妙な闘志が出ちゃってさ」
私たちもシャワーを浴びて一服着きます。
「ねえ、タカ。このホテルにはジムもあるらしいから、行ってみない?」
「いいですねえ。今日の稽古はなんだか近代的ですねえ」
ということで私たちはホテル内にあるジムへと移動。ジムにはそれほど良い設備というわけではありませんが、ウェイトトレーニング用のマシーンが何台かと・・サンドバッグまである!
「師匠!サンドバッグがありますよ。あれ叩きましょう!」
「お、いいねえ。でも今誰か使ってるからなあ・・ん?あれは」
黙々とサンドバッグを叩き続ける男は、さきほどのプールにいた水泳男だ。
これって・・・もしかして嵐の予感????
ホテルの中庭にはプールがありますので、
「タカ、泳がない?」・・と誘います。
しかしタカはイマイチ乗り気では無い様で、
「あのー、実はオレ・・カナヅチなんですよ」
運動神経抜群のタカにしては、これは意外でした。
「そうか。それじゃ僕が教えてやるよ。これでも元競泳選手だから」
「へえ。。師匠、水泳もやってたんですか」
私は水泳は、インチキな空手なんかよりもよほど得意です。
前作をお読みの方はご存知のように、私はかつてここチェンマイでトラブルにあったとき、水泳の経験のおかげで命拾いしたこともあります。
私は小学生のころ身体が弱かったため、健康のために親が水泳をやらせたのです。
スポーツ全般があまり得意でなかった私ですが、不思議なことに水泳の上達は大変早かった。
ご存知のように水泳と言うのは、理想的全身運動ですから、私の身体はみるみる丈夫になり、中学生のころには選手として活躍し、地方の大会ですが自由形で優勝したこともあります。
そういえば中学生のころにはすでに、私は空手の道場にも通っていました。
学校で水泳部の部活をこなした後、道場で空手の稽古をしていたわけですから、今思えばものすごい運動量です。若いってすごいですね。
私たちは水着を持っていませんでしたので、部屋に戻ってラジャで買ったムエタイ・トランクスに着替えてプールに行きました。
このホテルのプールはリゾートホテルにありがちな変形プールではなく、競泳用の50mプールです。
この手の中級以下のホテルというのは、なぜかあまり日本人を見かけません。
日本人は自由旅行ではもっと安いゲストハウスに泊まり、ツアーでは高級ホテルに泊まるものなのです。
ですから、プールサイドに居るのは、すべて白人の男女です。
泳いでいる奴より、日向ぼっこしている奴の方が多い。
そこにムエタイ・トランクスを履いている珍妙な東洋人の男がふたりですからすごく浮いていたと思います。
「師匠。なんか外人どもが皆んな、こっち見てますけど」
「気にするなタカ。タイでは僕らも外人なんだから。それより水泳の稽古だ。準備体操をしてからプールに入れ」
「押忍」
なんでもいいから、泳いでみろ・・・とタカに命じます。
指導する前に、タカの泳ぎのレベルを見なければ始まりません。
タカがクロールのような泳ぎで、10mほど進みます。
「なんだ。カナヅチだって言ってたけど、ちゃんと泳げるんじゃん」
「いや、息継ぎがどうしても出来ないんですよ」
・・・それなら簡単だ。
「息継ぎってのは無理に顔を上げなくてもいいんだ。クロールの手を水から上げるときに、後ろをふりかえる要領で自分の肘を見てごらん。そうしたら顔の前の水が切れて、呼吸が出来るから。鼻で吸っちゃダメだよ。口で吸うんだ」
元来、運動神経の良いタカは少しコツを教えてあげるだけで、すぐに息継ぎをマスターしました。
その後一時間ほど練習したあとには、50mを泳ぎきるほどになりました。
「もう大丈夫だよ。カナヅチなんて言わなくても」
「押忍。ありがとうございます」
そのときひとりの白人男性がプールにやってきました。
なかなか引き締まった体つきで、競泳用パンツに競泳用ゴーグルまで身につけています。
私たちのいる反対側から、水に入ると腕時計を見てから猛然とこちらに向かってダッシュしてきます。
フォームはまずまずですが、選手クラスではありません。フィットネスジムで水泳を習っていると言う程度でしょう。
このプールサイドにはセクシーなビキニを着た、白人のお姉ちゃんが何人もいますので、彼女らの目を意識したパフォーマンスかもしれません。
こちら側に到着した男は、時計のタイムを確認し、こちらを「何だこいつらは」というような目で見ますが、すぐに向こうを向いて、両手で水をすくい上げで顔を洗います。
そしてふたたび腕時計に目をやります。このとき私のスイマー魂に火が付きました。
男がプールの壁をけって飛び出すと同時に、私も飛び出します。
全力で泳ぐのは久しぶりですが、私がゴールに手を着いて顔をあげ、振り向くとバシャバシャと水しぶきを上げて、男が後からゴールします。楽勝だ(笑)。
私は現役をはなれてずいぶんになりますが、スポーツでも格闘技でも何でもそうですが、ある時期に選手クラスの訓練を経験したものと、素人の趣味とではレベルがまったく違うものです。
男は顔を上げると悔しそうな顔をして、指を一本立てて「もう一度だ」というように合図します。
しかし、何度やっても同じこと。
今度も私が身体ひとつ引き離して先にゴールしました。
お姉ちゃんたちの前で面目丸つぶれになった男は、不機嫌そうな顔をして、そのままプールから出てシャワールームへと消えていきました。
「いやあ、さっきの白人。なんか怒ってましたね」
「悪いことしちゃったかな?女の子の前でいいとこ見せたかったんだろうけどね。なんか妙な闘志が出ちゃってさ」
私たちもシャワーを浴びて一服着きます。
「ねえ、タカ。このホテルにはジムもあるらしいから、行ってみない?」
「いいですねえ。今日の稽古はなんだか近代的ですねえ」
ということで私たちはホテル内にあるジムへと移動。ジムにはそれほど良い設備というわけではありませんが、ウェイトトレーニング用のマシーンが何台かと・・サンドバッグまである!
「師匠!サンドバッグがありますよ。あれ叩きましょう!」
「お、いいねえ。でも今誰か使ってるからなあ・・ん?あれは」
黙々とサンドバッグを叩き続ける男は、さきほどのプールにいた水泳男だ。
これって・・・もしかして嵐の予感????