旅立ちの朝
文字数 1,656文字
稽古の後・・・かわいそうなプレディー君にフォローを入れるため夕食に誘いました。
やはり、このまま彼に辞められてしまってはデワ支部長に申し訳ないので。
プレディー君は最初はひどくビビっておりましたし(無理もない・・)アゴが痛くて満足に食事もできない様子でしたが「いやあ、君はスジがいい。基本からしっかり練習すればこの道場・・いやスリランカでもチャンピオンになれる素質がある」などと私が必死でおだてると段々その気になってきました。(単純な奴だ)
それからなぜか彼はすっかり私とタカになついてしまい、この後保養のために向かうキャンディ(スリランカの第二都市)も彼の故郷が近いとのことで案内してくれることになりました。
今回の旅は前回のように空手指導普及の任務ではありませんので、コロンボ道場はあくまでもついで。
キャンディでの保養が目的なのです。
「師匠、スミマセン。あんなつまらない蹴りもらっちゃいました」
その日の晩、ホテルの部屋でタカが詫びております。
「ま、その後きっちりやっておいたからいいだろう。プレディー君には気の毒だったけど」
「押忍。かわいそうなことしましたね。でもオレもキレてましたから」
「あの場合は仕方ないよ。それに後半はタカもちゃんと手加減していたし。まあ殺伐としたことはこれくらいにして、次はキャンディで心身ともに休養しよう。いいところだよ」
翌朝のコロンボ。
まだ朝日が昇りきっていないため涼しくて気持ちが良いです。
私とタカは荷物を背負ってコロンボ・フォート駅へ向かいました。
「駅でプレディーと落ち合ったら朝飯食っておこう。キャンディに着くのは夕方だから、列車のなかではろくなもん食べられないからね」
「押忍!」
かすかに明るくなってきた市内には日本の都市部同様に通勤中のサラリーマンが歩いております。違うのは、その横をノラ牛が歩いている・・・スリランカは仏教国なのにインド同様、ノラ牛がいるのです。そしてサリー姿の女性たち。
かたつむりが這っているようなシンハラ文字の看板が林立するコロンボ中心地のビル街を抜けるとフォート駅が見えてきます。
駅周辺には手に銃身を短く切り詰めたショットガンを持った警官が数名見えます。
「師匠、何かあったんすかね?」タカが尋ねます。
「いや、コロンボでは人の集まるところには必ず武装した警官がいるんだ。今年もテロが何度かあったからね」
タミル人反政府組織(LTTE)によるテロ活動が、一見平和に見えるスリランカに暗い影を落としており観光客が激減、経済的にも大きなマイナス要因となっています。
「それよりプレディーはいるか?・・・んん?あ、あれか?」
「押忍。あれですね・・・しかし何ですかあの格好は!」
「オース!トミーセンパイ、タカセンパイ」
手を振って呼んでいるプレディーは何やら黒い、決して美しいとはいえない毛皮のコートを着ております。このクソ暑いスリランカで毛皮??
「オッス、プレディー。何これ?このコートは一体?」
「熊の毛皮ですよ!キャンディは寒いでしょ。だからこれ着ていくんです」
胸を張ってうれしそうに・・どうやら彼の自慢のファッションらしいです。
「・・・おお。かっこいいよプレディー。でもまだここはコロンボなんだし、暑いんだから脱いだほうがいいんじゃないか?ま、飯でも食いに行こうや」
駅の建物にある軽食堂のテーブルに腰をおろし、紅茶とパウロティ(食パン)を注文します。
運ばれてきた紅茶をすすりながらあらためてプレディーの顔を見ると、なにやら顔全体が歪んでおります。アゴのつけねのあたりが虫歯のように腫れ上がっているせいです。
横目でタカの顔を見ると彼も何か気まずそうな顔。。
「あれ?おふたりともどうしたんですか。何か神妙な顔をして。心配しないでもキャンディのことはボクに任せてください。いいところに案内しますよ」
「あ?ああ。うん。まかせたよ。な?タカ」
「え?ええ。たのむよプレディー」
・・・とりあえずプレディーの顔は見なかったことにしよう。
やはり、このまま彼に辞められてしまってはデワ支部長に申し訳ないので。
プレディー君は最初はひどくビビっておりましたし(無理もない・・)アゴが痛くて満足に食事もできない様子でしたが「いやあ、君はスジがいい。基本からしっかり練習すればこの道場・・いやスリランカでもチャンピオンになれる素質がある」などと私が必死でおだてると段々その気になってきました。(単純な奴だ)
それからなぜか彼はすっかり私とタカになついてしまい、この後保養のために向かうキャンディ(スリランカの第二都市)も彼の故郷が近いとのことで案内してくれることになりました。
今回の旅は前回のように空手指導普及の任務ではありませんので、コロンボ道場はあくまでもついで。
キャンディでの保養が目的なのです。
「師匠、スミマセン。あんなつまらない蹴りもらっちゃいました」
その日の晩、ホテルの部屋でタカが詫びております。
「ま、その後きっちりやっておいたからいいだろう。プレディー君には気の毒だったけど」
「押忍。かわいそうなことしましたね。でもオレもキレてましたから」
「あの場合は仕方ないよ。それに後半はタカもちゃんと手加減していたし。まあ殺伐としたことはこれくらいにして、次はキャンディで心身ともに休養しよう。いいところだよ」
翌朝のコロンボ。
まだ朝日が昇りきっていないため涼しくて気持ちが良いです。
私とタカは荷物を背負ってコロンボ・フォート駅へ向かいました。
「駅でプレディーと落ち合ったら朝飯食っておこう。キャンディに着くのは夕方だから、列車のなかではろくなもん食べられないからね」
「押忍!」
かすかに明るくなってきた市内には日本の都市部同様に通勤中のサラリーマンが歩いております。違うのは、その横をノラ牛が歩いている・・・スリランカは仏教国なのにインド同様、ノラ牛がいるのです。そしてサリー姿の女性たち。
かたつむりが這っているようなシンハラ文字の看板が林立するコロンボ中心地のビル街を抜けるとフォート駅が見えてきます。
駅周辺には手に銃身を短く切り詰めたショットガンを持った警官が数名見えます。
「師匠、何かあったんすかね?」タカが尋ねます。
「いや、コロンボでは人の集まるところには必ず武装した警官がいるんだ。今年もテロが何度かあったからね」
タミル人反政府組織(LTTE)によるテロ活動が、一見平和に見えるスリランカに暗い影を落としており観光客が激減、経済的にも大きなマイナス要因となっています。
「それよりプレディーはいるか?・・・んん?あ、あれか?」
「押忍。あれですね・・・しかし何ですかあの格好は!」
「オース!トミーセンパイ、タカセンパイ」
手を振って呼んでいるプレディーは何やら黒い、決して美しいとはいえない毛皮のコートを着ております。このクソ暑いスリランカで毛皮??
「オッス、プレディー。何これ?このコートは一体?」
「熊の毛皮ですよ!キャンディは寒いでしょ。だからこれ着ていくんです」
胸を張ってうれしそうに・・どうやら彼の自慢のファッションらしいです。
「・・・おお。かっこいいよプレディー。でもまだここはコロンボなんだし、暑いんだから脱いだほうがいいんじゃないか?ま、飯でも食いに行こうや」
駅の建物にある軽食堂のテーブルに腰をおろし、紅茶とパウロティ(食パン)を注文します。
運ばれてきた紅茶をすすりながらあらためてプレディーの顔を見ると、なにやら顔全体が歪んでおります。アゴのつけねのあたりが虫歯のように腫れ上がっているせいです。
横目でタカの顔を見ると彼も何か気まずそうな顔。。
「あれ?おふたりともどうしたんですか。何か神妙な顔をして。心配しないでもキャンディのことはボクに任せてください。いいところに案内しますよ」
「あ?ああ。うん。まかせたよ。な?タカ」
「え?ええ。たのむよプレディー」
・・・とりあえずプレディーの顔は見なかったことにしよう。